人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
ISSN-L : 2187-1930
短報
宗教的他者への誤解と社会的対立の解消に向けて
―述語的論理によるスコプツィ派信仰実践の分析を事例に―
大喜多 紀明
著者情報
ジャーナル フリー

2025 年 2025 巻 35 号 p. 506-518

詳細
抄録

 本稿は,18世紀ロシアのキリスト教異端・スコプツィ(去勢派)の信仰実践を述語的論理の視点から分析し,その教義の合理化と組織拡大に果たした役割を検討するとともに,現代の宗教批判の問題点を考察することを目的とする.去勢派は,去勢行為を「原罪からの解放」および「神との合一」の手段と位置づけ,睾丸や乳房を「善悪を知る木」の果実,陰茎を「蛇」とみなす独自の教説を展開した.本稿では,この教説が述語的論理によってどのように合理化され,信者の勧誘や組織の発展に寄与したかを分析する.一方,現代における過剰なカルト批判もまた,述語的論理の誤用による一般化(「異常行動=危険」)という論理的誤謬を孕んでおり,信仰の内面的動機を軽視したまま,社会的対立を助長する危険性がある.本稿では,去勢派の事例を通じて,宗教的他者への誤解がどのように生じ,排除の論理が形成されるのかを明らかにする.さらに,平和論の視点から,宗教的実践の異質性を単に「異常」として排除するのではなく,その信念体系を理解し対話を促進することが,社会の分断を防ぐ上で重要であることを指摘する.述語的論理の誤謬に基づくカルト批判の危険性を認識し,より包括的な宗教理解を進めることが,結果としてポジティブ・ピースの構築にも寄与すると考えられる.

著者関連情報
© 2025 大妻女子大学人間生活文化研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top