2002 年 11 巻 p. 109-121
「教育的関係」をめぐって、現在、相反する二つの状況が見られる。教育や人間形成環境における「関係性」の喪失や危機が叫ばれる一方で、これまで「教育的関係」が意識されなかったような、たとえば大学・高等教育などの領域において、その増殖・強化が指摘される。教育学においては、19世紀末から20世紀にかけて教育関係論という認識枠組みが成立したが、それはやがて教育的相互作用論にシフトした。しかしそれは結局「教育的関係」の喪失を追認する役割を果たし、またその危機と増殖というアンビヴァレントな状況を説明する有効な診立てを提供できていない。さらに「教え-学ぶ」という教育関係論の概念装置は、関係性の媒介項として「内容」を想定する場合に、より現実的な認識を提供することを予感させる。ただしこれについても「学び」の強調によって、相互作用論と同様の結果をもたらしている。そこから本稿は、既存の教育学や心理学の影響を受ける以前の、Learning概念の思想史的研究を展望する。