2008 年 17 巻 p. 205-219
マルクスが労働と教育の結合を主張したことは余りにもよく知られているが、この場合、教育と結合されるべきとされた労働は資本制的生産関係下における賃労働としての児童労働であった。本稿は、国際労働者教育協会ジュネーブ大会における教育論争に注目し、その中にマルクスを位置づけることを通して、労働と教育の結合が彼の当時の社会変革構想の要約的表現であったことを明らかにしたものである。マルクスは、イギリス工場法の歴史の分析を通して、労働者階級の中で最も弱い存在である子どもの保護の必要性が認められることが大人を含めた労働者階級全体の労働時間を制限することの出発点となることに注目していた。そして、その短縮によって生じた自由時間を有効に用いることによって労働者階級が政治的な主体形成を実現していくという社会変革の展望を抱いていた。マルクスにとって、賃労働としての児童労働は、かかる社会変革の構想を可能とするものとしてきわめて重要なものであったのであり、厳格に規制されるべきではあるがけっして禁止されてはならないものであったのである。