人文地理学会大会 研究発表要旨
2002年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 209
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第2会場
ニュージーランドにおける韓国人移民の動向
*金 木斗 哲Yoon Hong-key
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抄録


  1991年にニュージーランド政府がユーロピアン以外にも移民の門戸を開いてから新たな生活スタイルを求める多くのアジアの人々が当地に渡っている。特に韓国人移民の増加は目を見張るところがある。現在韓国はニュージーランドの5番目の輸出国であり、イギリスを追い越す勢いで両国の経済関係は緊密になってきた。これに伴って韓国人移民も急速に増加し、1996年のセンサスでは総人口の0.35%に当たる12,657人もの韓国出身の住民が報告された。これは10年前の426人に比べ約30倍の増加であり、彼らはニュージーランドの多文化傾向に十分貢献できるまで成長している。また、ニュージーランドにおける最大の都市であるオークランドには約1万人以上の韓国人が住んでおり、オークランド総人口の約1%に上っている。彼らの居住地域を見ると、約6割がオークランド大都市圏のNorthshore地域に居住していると推定され、アジアからの移民グループの中でも最も地理的集中度が高い。
  Yoon(1997)によると、韓国人移民の職業の種類は1992年の20から1997年の55と韓国人移民の増加に伴って多様化している。また、韓国人移民が経営する事業体の数も1992年の37から1997年の636へと1600%の増加を見せている。しかしながら、韓国人が経営する事業のほとんどは、ホスト社会の経済ネットワークに浸透できず、典型的なエスニック・ビジネスの段階に止まっている。つまり、韓国人の資本と経営スタイルで韓国人の従業員を雇い、主に韓国人を客にするものである。
  では、ニュージーランドへ移民する韓国人はどのような人々で、なぜニュージーランドを移民先として選んだのか。ニュージーランドにおける韓国人移民はほぼ例外なく高学歴で中産階級のホワイト・カラー出身である。また、韓国経済が好況のピークに向かっていたときに祖国を離れた彼らは、子供の教育環境ときれいでゆとりある生活環境をもっとも重要な移住動機として挙げている。このような社会経済的属性や移民の動機は、低い社会経済的ステータスと経済的理由といった従来の韓国人移民とは明らかに異なっており、新しい韓国人ディアスポラを象徴するものと言える。このように異なる社会経済的背景と移住動機をもつニュージーランドにおける韓国人移民は、移住前に描いていたパラダイスとしてのニュージーランドのイメージと現実としてのニュージーランドでの生活の間でどのように妥協し生活を営んでいるのか。本報告ではニュージーランドにおける韓国人移民の動向を1996年度センサスの分析と現地での深層インタビューより明らかにする。
  ニュージーランドにおける移民政策の転換はニュージーランドの実験と評される新自由主義改革の一環として1986年に行われた。それまでニュージーランドでは社会の安定(social fabric)という名分のもとに白人特にイギリスとアイランド出身を優遇する差別的な移民政策が厳格に維持されてきたが、1986年の移民法改正によって伝統的な特定出身国選好システムを廃止された。しかし、この改正では移民者に高い英語能力を要求するなど依然として差別的な要素が多く残され、期待された投資移民の増加はほとんど現れなかった。1986年の移民法改正が批判を浴びる中、ニュージーランド移民省は1991年に‘新しい移民者の個人的な貢献により多文化社会としてのニュージーランドを促す’ため、‘ポイント・システム’と呼ばれるより進んだ移民法改正に踏み出した。このポイント・システムの導入はアジアからの移民の増加に特に効果的であった。ニュージーランドの移民法は移民の数だけでなく、移民者の年齢、学歴、技術や経済状況をも巧みにコントロールしてきた。現在、ニュージーランドにおける韓国人移民の典型は3、40代で大学教育を受けた中産階級出身である。しかし、ニュージーランドにおける彼らの就業状況をみると、65%が失業ないし非就業人口であり、就業者のほとんども記念品店、レストラン、旅行代理店などのエスニック・ビジネスに従事している。これは移民社会の初期においては共通する現象であるが、韓国人移民の場合は言葉の壁以外にも文化的な違いによって主流社会への同化にほかの移民グループより困難を極めている。
  ニュージーランド移民省長官は1998年に“移民政策の失敗は数万の高級労働力が彼らの専門分野で働く展望をなくす結果を招いた”と認めた。確かに数千の高級技術を持つ韓国人移民が失業或いは非就業状態にある。しかし、ニュージーランドにおける韓国人移民社会の歴史は浅く、主流社会に適応する十分な時間がなかったことを考慮すると、彼らのアイデンティティつまり、Koreanか, New Zealanderかあるいは Korean New Zealanderかは今まさに形成中であると考えられる。また、それは移民社会に存在する3つの力、同化、隔離, そしてディアスポラの相互作用にかかっている。

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