抄録
本発表は,日米の観光案内書に含まれる道案内文の空間描写を,地理学的な観点から数量的に比較分析することを意図したものである。分析はまず,都市の街路パターンの規則性に注目して日米合計4都市(京都・東京・ボストン・ニューヨーク)を対
象地域に選定した。次に,同一シリーズで4都市全てをフォローしていることを条件として日米合計6種類の案内書を選定し,それぞれの都市について,各案内書が含む地図表現および言語表現を数量化した。
分析の結果,アメリカの案内書が主に言語表現に大きく依拠して空間描写を行うのに対し,日本の案内書は相対的に地図表現に依拠して空間描写を行う傾向が強いことが明らかになった。従って,空間的情報伝達において,この2つの表現モードには相互補完的な関係があると考えられる。
次に,言語による道案内文の分析の結果,相対的参照系とランドマーク(ノード)の使用によって成り立つ構文が,道案内文の最も基幹的なスタイルであることが明らかとなった。空間描写の際,言語情報は基本的に地図表現の至らない部分を補う働きがあり,従って日米を問わず慣れ親しみの度合いが低い(unfamiliar)環境ではより多く用いられている。しかし,言語表現に用いられている参照系や被参照物の種類や量は,対象となっている都市の特徴(街路パターンの規則性)に応じて変化することが明らかになった。また,日米の住所表示システムの違いが,案内書に含まれる各地点の配列方法や地図表現のスタイル(彩色・座標の使用)あるいは言語情報の使用率などに影響を与えていることも明らかになった。