人文地理学会大会 研究発表要旨
2002年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 113
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第1会場
都市圏の人口規模別にみた人口郊外化過程の差
*山神 達也
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抄録


  人口規模別に都市圏の人口成長をみた場合,人口規模が大きいほど時間的に早く大規模に,広範囲にわたって分散が起こるという見解,中小規模の都市圏を大都市圏の縮小版と見る見解,人口規模が異なると都市圏の成長性には本質的な差異があるという見解,など,様々な見解が混在している。このことから,本報告では,1965年以降の日本の都市圏を対象に,人口郊外化過程における人口規模別の差を検討した。そのさい,都市圏の設定は山田・徳岡(1983)による標準都市雇用圏(SMEA)を用いた。SMEAは,市町村を基本単位とし,中心都市への通勤率などを用いて対象年ごとに圏域を設定するが,本報告では,1995年での圏域に固定した。また,SMEA内部をSMEA編入年次別に区分した。具体的な分析にさいし,1965年時点でのSMEAの人口規模をもとに,階層I(3大SMEA),階層II(前記以外で中心都市が政令指定都市),階層III(前記以外で50万人以上),階層IV(30-50万人),階層V(30万未満),と階層区分した。本報告での分析結果は以下のようにまとめられる。
  階層別に中心都市と郊外に分けて人口増加率を見ると,郊外が最大の人口増加率を示した期間は,階層Iと階層IIは1965-75年であるのに対し,他の階層は1975-85年である。また,各期間における郊外の人口増加率は,階層上位ほど高い。このことから,平均的な動向としては,階層上位のSMEAほど,時間的に早く大規模に人口郊外化が起こったといえる。しかし,この中心都市と郊外という二分法では,各郊外市町村の多様な動向を看取しえない。
  そこで,郊外を編入年次別に区分して,人口減少市町村数と人口急増市町村数を調べた。人口急増市町村数は,基本的にはどの階層でも,各分類でその数が最大になった時期が,新規編入郊外ほど近年であることから,人口の分散を読み取ることができる。しかし,詳細に見ると,階層上位ほどその時期が早く,人口急増市町村の割合が高い。一方,人口減少市町村数は,階層Iでは年々増加してきたが,それらは早い時期から郊外であったものが多い。また,階層IIでも全体的に増加しつつあるが,編入時期が近年のものでの割合の高さに注目される。それ以下の階層では,編入時期が近年のものほど多い。以上の点から,人口規模が大きいほど,郊外化の時期が早く大規模に,そして広範囲に及んだことが確認できる。
  また,人口急増市町村数と人口減少市町村数の両者に目を向けると,各階層とも,このどちらかに属する市町村が増えており,人口が急増するか減少するかの二極分化が進んできた。これは,階層Iの場合,早い時期から郊外であった市町村に人口減少市町村が多いことから,人口密度分布が平準化したものと考えられる。また,階層IIの場合,95年編入郊外で人口減少市町村の方が割合は高い。すなわち,階層IIのSMEAの外縁部に位置する市町村では,人口減少が継続し,人口分散の影響がほとんど見られないのである。そして,階層III以下では,郊外全般で急増か減少かの二極分化が見られる。加えて,階層が下位ほど,また,編入時期が近年のものほど,人口減少市町村の割合が高い。したがって,人口規模が小さいSMEAほど,人口成長の見られる市町村数が限られ,特定の市町村に向いてのみ人口分散が起こって,他の市町村では人口流出が継続したのである。この動向は,3大SMEAとは対照的である。すなわち,人口規模が小さいSMEAでは,人口分布の偏りがより強化される形で,人口再分布が進んできたと考えられるのである。
  以上のように,平均的な動向としては,階層上位のSMEAほど,時間的に早く大規模に人口郊外化が起こったといえるが,郊外市町村間の差異を考慮した場合,階層上位のSMEAでは,人口分布の偏りが弱まる形で郊外化が進展してきたのに対し,階層下位のSMEAでは,郊外の各市町村均等にわずかずつ人口増加が見られるわけではなく,人口分布の偏りが強化される形で郊外化が進展してきたと考えられる。
  人口規模別にこのような差異が生じた要因を考えると,人口規模が小さいと中心都市から人口を押し出す力が相対的に弱いという点が挙げられる。そして,同一SMEA内の郊外間で差異が生じた要因として,中心都市とのアクセスの良さが考えられる。具体的には,郊外市町村に中心都市への通勤率の上昇をもたらしたものが,離農や兼業化に伴うものか,中心都市からの転入人口によるものか,という相異が考えられる。前者であれば,人口分散の有無に関わらず通勤率が上昇するが,後者であれば,人口分散が通勤率の上昇につながるからである。

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© 2002 人文地理学会
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