人文地理学会大会 研究発表要旨
2003年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 201
会議情報
平城京の土地利用規定要因と地形環境
*河角 龍典
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

本研究の目的は、平城京の地形環境を復原し、その復原成果と平城京内部の土地利用との関係から、平城京の土地利用規定要因を解明することにある。本研究では、ジオアーケオロジー(geoarchaeology)の方法を適用し、考古学や歴史学の研究成果に対応する精度の地形環境復原を行い、平城京の土地利用との対比を行った。平城京を流下する佐保川流域の地形環境は、奈良時代以降も著しく変化しており、奈良時代の地形環境は現在と異なる地形環境であることが判明した。佐保川流域平野における歴史時代の地形環境変化は、奈良時代以降4つの地形環境ステージに区分できた。表層地質調査からみた奈良時代の平城京は、洪水氾濫の少ない地形環境であった。また、史料からみても奈良時代の水害は、728(神亀5)年の1回にとどまっている。平城京の地形環境復原図と土地利用復原図とを対比した結果、平城京内部の土地利用は、地形環境と密接に関係することが明らかになった。平城京内部の土地利用は、地形の配列に対して決して無秩序ではなく、土地条件を考慮した上で配置されていたと推測できる。平城京の土地利用規定要因の中には、社会環境に加えて、地形環境も含まれていたのである。平城京における市街地や貴族の邸宅は、地下水位が高く、かつ洪水の危険性もある、現在の土地条件評価基準では宅地として不適当な地形に立地する傾向が認められた。これは水を得やすい土地を選択した結果であり、井戸による地下水の取水が容易である土地を選択した結果であると考えられる。こうした土地利用パターンの背景には、集水域面積が狭小で、洪水に対しての安全性は高いが、その一方で水資源に乏しいという平城京固有の立地特性がある。こうしたなかで、平城京内部の土地利用は洪水発生区域には左右されず、生活用水の取水条件あるいは地盤条件が、土地利用を規定する要因となったと考えられる。

著者関連情報
© 2003 人文地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top