抄録
本報告では、大都市圏特に郊外に居住する若年者が非正規労働力化するメカニズムを、求人、求職の局面に着目して明らかにする。郊外だけでなく大都市圏全域の居住者を広告の対象とする求人情報媒体(an、fromA、インターネット求人サイトなど)は、都心に立地する事業所が利用する傾向が強い。一方、新聞折込求人広告は、郊外に新聞に折り込まれる傾向が比較的強い。なお、郊外の新聞に折り込まれる求人広告には、郊外に立地する事業所だけでなく都心に立地する事業所の求人情報も掲載されている。続いて、郊外においては実際にどのような求人広告媒体がよく利用されているのかを検討した。郊外では、新聞折込求人広告や郊外に限定した求人情報誌だけでなく、都心の事業所が掲載する傾向の強かったan(学生援護会)やfromA(リクルート)などの求人情報誌もかなり利用されている。 しかし、以上の有料求人広告媒体以上に、郊外で利用されているのは、貼り紙求人ポスターなどの店頭求人広告である。 店頭求人広告は掲載料が基本的に不要なため、郊外の事業所では一般的に利用されている。一時的な労働力とみなされる非正規労働力の場合、募集時の手間、コストをできるだけ抑えて獲得することが求められるため、求人側は、手間、コストを要さない店頭求人広告を積極的に活用して、若年の非正規労働力を確保している。一方、こうした店頭求人広告を通じた応募は、求職側(若年者)の様々な応募方法の中でも最も一般的に行われているものであり、非正規労働力としての雇用を始める際の重要なきっかけ、情報源となっている。郊外に居住する若年者、とりわけ女性において、自宅近隣に立地する事業所を日常的に訪れる中で店頭求人広告を目にし、その求人情報をもとにその事業所へアルバイトを応募する者の存在が確認された。