人文地理学会大会 研究発表要旨
2003年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 102
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ポルトラーノ型地図帳にみる地理情報
*多田 祐子
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抄録

地中海を舞台とする交易活動が盛んであったスペイン、イタリアなどの地中海諸都市では13世紀後半から17世紀にかけて、ポルトラーノportolanoとよばれる海図が多く生産された。とくにジェノヴァやヴェネツィアでは14世紀から15世紀にかけて名だたる地図工房が活躍した。ヴェスコンテ・ピツィガノ・アネーゼ家などの地図工房がその代表例である。ポルトラーノとは、航海者のための「航海案内書」に挿入された付図であった。しかし、情報の確かさと美術的評価から海図本来の情報にとどまらず、人々の大陸に関する知的好奇心を満足させるために勢力関係を示す図柄を内陸に描いた華やかなポルトラーノも製作されるようになった。また、体裁も手書き(手描き)または印刷の「航海案内書」、「海図帳」、「一枚ものの海図」まで変化に富んでいる。今日まで伝わる例が多い由縁であろう。 本報告では、17世紀に製作された『真の航海術』と題されるモナコ出身のモンノGiovanni Francesco Monnoが製作したポルトラーノ型地図帳を取りあげる。体裁はポルトラーノの原型に則ったものであり、構成は航海術に関する記述、7枚のポルトラーノ型海図、地誌および追記などからなる。航海術に関する記述では、天体の運行や航海用器具、位置の測定方法、日出と日没の時刻を示した表など体系的なものである。また、地誌の頁ではジブラルタル海峡付近から時計回りに巡るように配列された地中海沿岸の地誌に29枚の小型の地図が挿入されている。なお、7枚のポルトラーノ型海図には地誌の頁では触れられていない大西洋や黒海も図幅に含まれている。 モンノ・ポルトラーノの概観は以上のとおりであるが、17世紀という地図製作の中心が大西洋岸に移動した時代に、敢えてポルトラーノの原型に忠実な地図帳を手描き製作した意義について、また同時代の使用者あるいは鑑賞者の視点からこの地図帳の意義について考察したい。

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