人文地理学会大会 研究発表要旨
2006年 人文地理学会大会
セッションID: 206
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広告活動の空間的展開
広告メディアミックスの空間的重層性に着目して
*近藤 暁夫
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抄録
 これまで地理学では企業およびその空間的拠点である事業所が各媒体の広告をどのような範囲に展開させ、取引の成立を促しているかについて広範な検討はされていない。事業所が立地したのち、立地した土地に定着していくプロセスを把握するためには、そこに介在する事業所側からの周囲に働きかける活動を検討する必要があろう。そこで、本報告では中京大都市圏の事業所を例として、事業所による広告活動が、どのような空間的な広がりをもってなされるのかを示したい。  使用するデータは中京大都市圏西部において屋外広告の掲出が確認された事業所4,000件に対して行なった広告活動のアンケート調査である。回収数260件(第1図)。媒体ごとの年間広告費・広告出稿数・広告内容・広告に期待する効果・広告の空間的な到達範囲について尋ねている。回答者の業種は医療関係が最も多く、次いで買回り品の小売店、製造業である。  それぞれの広告媒体には、媒体特有の活用法と空間的な到達範囲・投入範囲が存在する。単独で事業所が目指す取引の成立に十分な効果をもたらす広告媒体はないと考えてよい。事業所としては、これらの媒体を使い分け、また組み合わせて総体としての広告プロモーションを行ない、取引の成立を促すことになる。  事業所の広告活動は、以下のように展開される。事業所にとり、広告の達成目標は、基本的に顧客が事業所に到達し、取引が成立することである。そのため、広告は、事業所の存在、事業内容、位置を顧客に周知してもらい、事業所までの到達を促すために出される。アンケート結果をもとにモデル化すると、事業所による広告展開は以下のように4段階の重層性をもってなされる(第3図)。  第1段階:自分自身についての広告展開――事業所を中心に東海エリアの範囲にテレビまたはラジオ広告を展開。事業所(企業)の存在の広範な認知と、事業所への好感形成を目的としている。広告は事業所名など、存在自体のPRに重点が置かれ、受け手の情緒面に訴える内容が多い。年間広告費は140万円前後である。  第2段階:自身の内容についての広告展開――近隣市町村~県内には、新聞・雑誌広告を展開する。これは、事業所の存在認知に加え、事業所の業務内容や商品についての知識形成を狙い、第1段階に比して説得的・説明的な内容の広告となる。年間広告費は10~50万円程度である。  第3段階:自身の特徴および変化についての広告展開――隣接市町村~事業所の属する市町村には、チラシ広告を展開させ、イベント情報などの時事的情報を集中的に投入し、より具体的・日常的な情報伝達と来店を促す。年間広告費は約50万円である。  第4段階:自身の位置とアクセスについての広告展開――最終的な来店を促すため、事業所の位置の提示と誘導を目的に屋外広告を展開させる。最も事業所からの広告到達範囲が狭く、事業所から5km程度の範囲に収まる。最も多く広告が掲出されるのは事業所から約800mの位置である。年間広告費は約20万円。  事業所の広告展開は、遠距離においてはイメージ構築を重視した広く浅い宣伝であり、近距離になるほど具体的・説得的な情報を織り交ぜ、質量ともに集中的に情報を投入する。以上の粗放的-集約的な各段階の空間的な重層性を有する広告展開によって事業所について周知を図り、取引の成立を促す。  なお、事業所の活動内容によって、必要となる広告展開の程度は異なる。このため、すべての広告主が上記の段階すべてを踏まえるわけではなく、回答者の9割は第1段階の広告展開を、4割は第2段階目までの広告展開を行なっていない。業種ごとの広告展開の傾向でいえば、製造業は紙媒体を中心とした広範だが薄い宣伝、買回り品小売店は広告の展開範囲を絞ってきめの細かい広告投入を行なう。広範かつ多様に広告を展開させるのは不動産業、観光産業であり、最寄品小売店は広告展開に積極的でない。
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© 2006 人文地理学会
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