人文地理学会大会 研究発表要旨
2006年 人文地理学会大会
セッションID: 211
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都市スプロールの中の野菜特産地
徳島県藍住町におけるニンジン生産
*豊田 哲也田中 耕市
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抄録
 徳島市の北西に隣接する藍住町は,全国有数の春夏ニンジンの産地である。この地域は温暖な気候や吉野川が運んだ肥沃な沖積土壌に恵まれ,江戸時代には藍作がさかんであった。戦後はダイコンやシロウリなど漬物用野菜の生産を経て,1960年代後半からトンネル栽培による集約的なニンジンの冬作が普及した。その一方,徳島市の郊外住宅都市として同町の人口増加は著しい。1970年に約1万人であった人口は,2000年時点で3万人を超えた。これは四国4県166市町村の中でも異例の急増ぶりである。土地利用の競合という面から考えると一見両立しがたい二つの社会経済現象が,この地域でなぜ同時に進行しえたのだろうか。

 藍住町では,1975年に全町域が都市計画区域に指定されたが,戦略的意図から区域区分はおこなわれず,全域が「未線引き白地地域」のままである。その結果,規制の弱い同町ではスプロール的な開発が虫食い状に進み,農地と住宅地が混在する市街地が形成された。この間の都市化圧力により農地の転用が進んだが,土地を譲渡または賃借した農家は,兼業化や不動産経営にシフトするグループと,他から農地を借り入れて規模拡大を図るグループに分かれた。1980年代以降の農業政策転換にともなう農地流動化は,こうした分極化を後押しした。また,転用期待の高まりや活発な土地取引は,不動産価格の上昇を通じて農家に含み資産をもたらし,経営の拡大や機械化に寄与した面も指摘できる。

 このように,急激な都市化の進展と集約的な特産地の形成は,限られた土地の利用をめぐって競合関係にあると同時に,土地市場における不動産資本の動きを通じ相互に促進しあう関係にあると言える。
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© 2006 人文地理学会
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