「昆虫食」に関心を持ち,調べ始めた頃には,フィールドへ行けば「虫を食べることを調べて何になる?」地理学会では「変な食べ物を取り上げれば地理学になると思っているヤツがいる」とあしらわれた。カラハリ砂漠の狩猟採集民の調査に参加した時には,「砂漠で虫だと?」生態人類学者から嘲笑を買った。東南アジアの農村調査では,「どうして虫を調べる者がいっしょにいるのだ」と農学者から疎んじられた。それでも世界各地のさまざまに昆虫を捕り食べる人びとに惹きつけられ,四半世紀にわたって研究し続けてこれたのも,地理学が「自然と人間との関わりあい」を究明する学問分野であり,懐の広さのおかげ故である。この発表では,昆虫を捕って食べる人びとの研究という周辺的な立場からの地理学研究の可能性とナチュラル・ヒストリー研究への位置づけを検討したい。