人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 309
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第3会場
国際経営のための立地の重要性
―ドイツの事例―
*SCHLUNZE Rolf D.
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抄録

 本調査の目的はドイツの仕事環境と日本人マネジャーの異文化能力の関係、経営的成功と異文化能力は立地によって異なるという考えを検証することである。そのため、全く異なるビジネス環境を持つデュッセルドルフ、ウォルフスブルグ、ベルリンの3都市で調査を行った。 インタビュー調査に用いた6つのカテゴリーから主な研究結果について述べたい。 1)国際コミュニケーションをうまくするためには、共通の言語を見つけ、文化的距離の橋渡しをし、現地のシステムに順応することが大変重要である。デュッセルドルフとベルリンでは共通の言語は英語であったのに対し、ウォルフスブルグではドイツ語であった。ウォルフスブルグのマネジャーは現地のネットワークに最も溶け込んでいた。 2)デュッセルドルフのマネジャーはみな、生活は快適であるといっているが、同時に職場以外でドイツ人社会に溶け込んだり、ドイツ人と情報を共有したりするのは難しいと感じている。他の立地のマネジャーは、様々な困難を克服してきているため、ドイツ人に対して深い理解を示していた。 3)日本の企業文化についての知識も異文化能力に影響する。日本人マネジャーは大使としての役割を真剣に考える必要がある。 4)3つの立地のビジネス文化は大きく異なる。  デュッセルドルフは日本人が非常に集中している結果、日本人個人はドイツの環境に適応する努力をあまりしていない。  ウォルフスブルグでビジネスをするということは、日本人はドイツの職場で働かなければならない、という意味である。このためマネジャー個人は現地の経営スタイルに適応することになる。  ベルリンでビジネスをするということは、多文化の職場で働くということであり、それによって異文化経営のスキルが高められている。 5)日本人マネジャーは、英語ができて現地市場をよく理解しているドイツ人スタッフを頼りにしている。よりよい生活のために働く、という共通のコンセプトを持つことで、文化的な距離をつなぐことができる。 6)日本人のためのインフラは海外駐在の日本人マネジャーにとって重要。情報サービス、日本人学校、日本語のできる店員のいるショッピング施設、日本食レストラン、といったインフラはドイツにおいてデュッセルドルフにかなう立地はない。  さらに、立地選好とマネジャーの個人的ネットワークについても調査した。 企業環境 日本人マネジャーは人事管理が最も重要であり、次は職場の雰囲気であると答えているが、ウォルフスブルグのマネジャーだけは、多国籍企業ネットワーク内での協力が最も重要であると答えている。 市場環境 デュッセルドルフとベルリンのマネジャーにとって、市場機会がもっとも重要であるが、ウォルフスブルグのマネジャーはフォルクスワーゲン社との共同開発がもっとも重要であると考えている。デュッセルドルフでは、政府の協力も重要であると考えられている。 住環境 住みやすい環境に加え、ベルリンとウォルフスブルグに住むマネジャーは現地の情報ネットワークを特に重要と考えているのに対し、デュッセルドルフでは多様な都市生活が重視されていた。 仕事と生活のための立地選好 仕事の立地としてはデュッセルドルフが日本人マネジャーから好まれているといえる。ただし、ベルリンのマネジャーの中には、ベルリンがよいという人もいた。 行動志向 デュッセルドルフのマネジャーはリスクをとるタイプが圧倒的に多く、日本の方式を適用することに強い自信を持っているが、ウォルフスブルグのマネジャーは現地のビジネス習慣に適応する努力をしている。 経験と課題 多くのマネジャーは現地子会社の意思決定に積極的にかかわっているが、異文化シナジーの創出に成功していると答える人はほとんどいなかった。 調査結果から、日本人ネットワークがないという不利点は現地の情報ネットワークを広げ、文化的情報提供者として機能する現地人マネジャーとの関係を強めるという利点に変えることができるということがいえる。 デュッセルドルフはドイツでビジネスをする初心者にとっても経験者にとっても便利であるため、短期任務にも長期任務にも適している。ウォルフスブルグはドイツの自動車産業の技術と経営について学ぶためにはよい立地であるといえる。また、ベルリンは異文化マネジメントスキルを鍛えるために適した立地であるといえる。 結論として、日本人に対するサポートが充実しているほど、異文化能力を高めるのは難しいといえる。

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