人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 313
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第3会場
社会地区類型に着目した花粉症有病率の地域差
―日本版総合的社会調査(JGSS)データによる分析―
*村中 亮夫中谷 友樹埴淵 知哉
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抄録

I はじめに
 花粉症はスギやヒノキなどの花粉をアレルゲンとする季節性アレルギー性鼻炎の一種である。この花粉症の症状はアレルゲンへの曝露によって引き起こされるが,その重症度は人体のアレルゲンに対する曝露量とともに個人属性や生活環境によって影響を受けている。
 こうしたアレルギー性鼻炎のリスク要因の分析について,これまで空間分析的な観点からは,(1)居住地や通勤・通学先の周辺環境や,(2)人間の空間的な行動の軌跡に着目し,アレルギー性鼻炎発症のリスク要因を考察する研究が行われてきた。しかし,これらの研究は,特定地域における事例分析がほとんどであった。
 この問題について,(財)日本アレルギー協会と国立公衆衛生院疫学部は3歳~79歳の日本国民10,920人に対し,2001年に質問紙法によるスギ花粉症の全国疫学調査を実施した。この調査によると,日本国民の19.4%程度が有病者であると推定された(奥田2002)。また,全国12地域ブロック別にスギ花粉症の有病率をみると,北海道では4.8%,沖縄では2.7%と,地域的にも有病率の明確な差が存在することが示された。
 これらのような全国規模のデータを用いた花粉症有病率に関する研究では,スギ人工林の面積割合が相対的に低い北海道・沖縄では花粉症の有病率が低いなど,スギ花粉の飛散量に起因する花粉症有病率の各地方間の差異が指摘されてきた。しかし,花粉症に関する全国規模のデータは少なく,全国規模のデータを収集した場合でも市区町村単位より詳細な地理的情報を分析に反映させる調査デザインが採られることはほとんどなかった。 そこで本研究では,花粉症を発症するリスク要因を検討するのに際して町丁目レベルでのジオデモグラフィクスによる社会地区類型に着目した。具体的には,調査年次に満20-89歳となる日本全国の個人を対象に標本調査を実施した日本版総合的社会調査(JGSS: Japanese General Social Surveys)を資料とし,花粉症の自己申告データに基づいた花粉症の有病率を,被験者の居住する社会地区類型と関連付けながら分析する。

II 分析資料
 本研究では,全国規模で花粉症に関する自己申告データおよび,花粉症と関連する変数が利用可能な,2002年~2006年に実施されたJGSSデータを利用する。JGSSは大阪商業大学JGSS研究センターが実施主体となり,調査年次に満20-89歳となる日本国民に対して実施される,時事問題を含む社会意識・価値観等に関する総合的社会調査である。
 このJGSSデータは,大阪商業大学JGSS研究センターがデータを寄託している東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターに利用を申請することで一般に公開データセットが利用できる。しかし,この公開データセットからは,各標本の居住地について,最も詳細な空間単位として都道府県が識別できるにとどまる。そこで,本研究ではJGSSデータの追加データ・情報を利用し,JGSSデータの調査地点情報と,アクトン・ウインズ社が提供しているジオデモグラフィクスであるMosaic Japanとをリンクさせ,町丁目・字レベルでの地区類型情報を付加したJGSSデータを利用した。

III 結果
 2002-2006年に実施したJGSSデータにける花粉症の自己申告データを見ると,当該設問への有効回答8,989名のうち花粉症の自己申告者が1,726名を占め,約19.2%の被験者が花粉症の症状を持っていると訴えている。
 次に,社会地区類型別(11類型)に花粉症の自己申告者の割合を見てみると,「20 代,30 代を中心とした小さな子供のいる家庭が多い,大都市の郊外や小都市にある現代的なマンション,新興住宅地域」であるとされる「入社数年の若手社員」地区で24.7%,「ある程度の社会的な地位を手にした人たちが住む地域」であるとされる「会社役員・高級住宅地」地区で24.2%と高い割合を示している。
 一方で,「過疎地域」地区で8.8%であり,これに「農業従事者が多く住み,都市の周辺部,あるいは地方都市からそれほど遠くない地域」であるとされる「農村及びその周辺地域」地域を含めると,これら2つの農村的地区で花粉症の自己申告者の割合は13.6%であった。
 さらに,北海道・沖縄県居住者の花粉症の自己申告率の割合を見てみると,北海道居住者では7.2%,沖縄県居住者では1.1%であった。
 以上,地域的な指標にみる花粉症の自己申告率の分析結果からは,(1)社会地区類型からみると花粉症の自己申告率は,主に大都市圏内の郊外でみられる住宅地域類型で高く,農村地域類型において低い傾向が認められる,(2)スギ人工林の面積割合が相対的に低い北海道・沖縄では花粉症の自己申告率が低い傾向が認められた。

文献
奥田 稔「スギ花粉症の疫学―全国調査の問題点―」,日本醫事新報4093,2002,17-24頁。

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© 2009 人文地理学会
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