人文地理学会大会 研究発表要旨
2010年 人文地理学会大会
セッションID: 402
会議情報

第4会場
小売・サービス事業所の広告圏の形状分析
中京大都市圏における屋外広告活動を事例に
*近藤 暁夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
 企業・事業所による、消費者へ向けた様々な購買行動促進のための働きかけの中で、屋外広告は、消費者の事業所への来訪時の誘導のための情報伝達媒体として、需給接合の最終段階に用いられている。屋外広告による直接的な消費者の誘導範囲は、事業所の重要な営業範囲とみなすことができるとともに、それら宣伝活動が範囲内の消費者の購買活動に対して一定の影響を与えていることが期待できる。
 本報告は、中京大都市圏で営業する小売店と対個人サービス事業所による屋外広告の広告圏の形状を分析し、消費者に対する企業・事業所の宣伝活動の実態を明らかにすることで、大都市圏における商業活動の空間的な一側面を明らかにしようとする試みである。
 分析に用いるデータは、2004年1月~4月に中京大都市圏で実施した屋外広告の実態調査で収集した約2万件の屋外広告と約7千件の広告主(事業所)を基礎とする。その中から、小売業と対個人サービス業(飲食業と不動産業を含む)の事業所で、10件以上の広告の掲出が確認でき、かつ調査地域の末端に位置しておらず広告の掲出範囲を事業所を中心に面的に把握できる116件の広告主と、それらが掲出している屋外広告を分析の対象として抽出した。
 広告圏の形状は、事業所ごとに掲出している屋外広告の立地点を結んだ凸包と、凸包の外接円を作成し、両者の面積比を求めて検討した。同様に、広告の分布重心と事業所との距離を測定し、両者の位置関係を検討した(第1図)。その上で、屋外広告の形状や広告上に記載している情報に着目し、広告圏の広さや形状、掲出している屋外広告の属性、広告主の業種の関係を検討した。
 屋外広告を結んだ凸包(広告圏)の範囲は、平均して30㎢近いが、業種による面積の大きなばらつきがみられる(第1表)。広告圏の凸包比は、正六角形(凸包が正六角形の場合、凸包比は約0.83になる)の半分以下に留まり、面としての歪みは小さくない。ただし、広告の分布重心と事業所の立地点は比較的近く、広告の分布は基本的に事業所を中心とした求心的な構造を示している。
 野立看板や壁面広告など大型の広告を多く掲出する広告主は凸包比や凸包面積が大きく、電柱広告広告や街灯柱広告など小型の広告を多く用いる広告主は、広告の掲出総数が多い(第2表)。大型の屋外広告は、距離や時間に関する情報を掲載して、広範な範囲からの事業所への誘導に、小型の屋外広告は、集中的に展開させて導線の構築や消費者への印象付けを狙うなど、屋外広告は形状の大小によって役割を分担されつつ活用される。
 業種別の広告展開には、業種ごとに特有の傾向が確認でき、これは、それぞれの営業内容や商圏の性質との関係を示唆する。小売業は、凸包の面積に比べて掲出広告数が少なく、広範な範囲に誘導用の屋外広告を分散させている。医療施設には、事業所を中心とした狭い範囲に住所などの位置情報を掲載した広告を集中して展開させる、宣伝を重視した広告展開がみられる。宿泊サービス業と不動産業は、ともに広範な広告圏をもつが、宿泊サービス業の広告展開は、広告に住所を掲示せず、大型の屋外広告を展開させるなど、より事業所への誘導を重視した傾向がみられる。娯楽サービス業も広告への住所の提示が少なく、直接的な事業所への誘導を志向した広告展開といえる。飲食業は、凸包の面積、凸包比が極端に小さく、広告の分布中心から事業所が離れている。広告を面的に広範に展開させることは少なく、事業所直近部での誘導に特化した線状の広告展開に特徴がある。
 このように、事業所から消費者に対して宣伝や誘導が行われる空間的範囲は、必ずしも同心円状や六角形状の範囲でなされてはいない。この背景には、人口の偏りなどのほか、それぞれの企業・事業所の主体的意識的な宣伝戦略の存在が考えられる。これらの企業・事業所単位あるいは業種単位でみられる広告宣伝の内容の相違とその空間的な歪みは、企業・事業所の主体的で意図的な消費者への働きかけが、消費者の購買行動やその積み重ねによる商圏の形成プロセスに一定の役割を果たしうることを示唆する。今後、消費者の広告への実際の反応の測定など、更なる実証的追究が求められる。
著者関連情報
© 2010 人文地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top