人文地理学会大会 研究発表要旨
2012年 人文地理学会大会
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一般研究発表
新潟県上越市三和区における大規模稲作経営の展開とその特性
*清水 和明
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p. 114-115

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抄録

本報告では,新潟県上越市三和区における大規模稲作経営の展開とその特性を明らかにし,地域農業の維持に果たす意義を考察した。三和区は上越市の中央部に位置する。区の面積は39.4㎢であり,その大半が標高20~30mの平坦部に位置し,東部と北東部には標高100~200mの丘陵地がみられる。冬期には日本海側からの季節風の影響を受け,毎年1m以上の積雪を記録する豪雪地域である。2010年の総人口は6,211人,総世帯数は1,793戸である。総農家数は392戸で,その内訳は専業農家44戸,第1種兼業農家50戸,第2種兼業農家201戸,自給的農家97戸となっている。総経営耕地面積1,135haのうち,田の面積は1,112haとなっており,典型的な水稲単作地域である。三和区では,1980年代から今日にかけて総農家数は約4分の1に減少しており,とくに2000年代に入り経営規模耕地面積が1ha未満の小規模農家の減少が著しい。しかし,経営耕地面積が10ha以上の農家数が増加しており,農家1戸当たりの経営耕地面積の拡大も進んでいる。その拡大過程をみると,1990年には1.8haであったが,2000年の段階で2.1haになり,2010年には上越市内でも最大の3.8haになっており,20年間で2haの増加が確認できる。この直接的な要因となったのが,1994年から開始された県営経営体育成基盤整備事業(大区画圃場整備)である。同事業では三和区内全域を対象に1区画当たり50a~1㏊の圃場の整備が行われた。この結果,以下で取り上げる認定農業者や集落営農組織といった担い手に農地が集積することになった。2010年の段階で三和区には66戸の認定農業者がおり,その経営耕地面積は合計で722.9haになる。これは三和区の全経営耕地面積の約6割を占める。次に,経営規模別の農家数をみると,10ha未満の農家が43戸,10~20haの農家が13戸,20~30haの農家が5戸,30ha以上の農家が5戸となっている。 三和区の認定農業者において特筆すべきなのが,借地農地を利用した農業経営を行っていることである。合計経営耕地面積に占める借地農地の合計はおよそ5割(397.5ha)に留まっているものの,自作地のみの農家は全66戸中5戸であり,認定農業者の経営基盤を考える上で借地農地の存在は欠くことのできないものになっている。借地農地の分布についてみると,大半の農家が居住する集落ないし周辺の集落に借地農地に抱えているが,経営規模の大きい農家になるほど複数の集落に借地農地を有しており,経営規模20ha以上の農家では,三和区外の上越市の他地域にまで借地農地を抱えている。しかしながら,こうした借地農地を基盤とする認定農業者の更なる経営規模の拡大については慎重な姿勢をとっている農家が多くみられた。その要因の1つは,米価が低迷している今日において生産コストの削減が経営を維持するうえで不可欠になっており,経営規模の拡大に向けた投資に対して消極的な点である。第2の要因として,三和区内で集落営農組織の設立が進んでいることが関係している。本来であれば借地農地となり得る農地がこれら組織によって囲い込まれ,新たな借地農地が創出されにくくなっているという状況が形成されている。三和区には2010年の段階で10の集落営農組織がみられ,これら組織の経営耕地面積は合計 336.4haになる。組織の形態をみると,集落を構成単位とする農事組合法人が9法人,集落内の有志によって設立された株式会社が1社である。1つの農事組合法人を除いた2006年以降に設立されているが,これは米政策の転換にともない集落営農組織が施策の助成対象として位置付けられたことで行政側が組織の設立を積極的に促したことと,同時期に三和区内で実施されていた圃場整備事業が相次いで完了したことが理由である。とくに,圃場整備事業の実施による圃場の大型化にともない,集落の農地の維持管理を集落内で完結させるという規範が働いた集落において組織化が進んだとものと考えられる。集落営農組織による農業経営についてみると,これまでの個別農家ごとに行われていた農業生産は組織に一元化されている。また,農業生産にかかるコストも個々の農家で経営を行っていた時期と比べて削減され,作業料も軽減されているため,組織の活動を好意的に捉えている集落が多くみられた。しなしながら,政策が目まぐるしく変化する現状において,集落内の農業経営を組織に一元化させることに対して慎重な姿勢を取る農家もみられ,集落営農組織と個々の農家の経営が同時に行われている集落も存在する。集落営農組織の経営を持続させる上でそれぞれの組織が重要視しているのが販路の安定的な確保である。各組織では,新潟県特別栽培農産物等認証制度の適用を受けた米の栽培をはじめ,独自の減農薬・減化学肥料栽培を行い,で付加価値を高め,それと同時に,米穀店や一般消費者への直接販売を行っている。こうした取引関係を強化よる取り組みとして,一環として消費者を対象とした米の収穫体験の受け入れを行う組織や,新潟県外の米穀店に直接出向き店頭で米や郷土料理の直接販売を行う組織もみられた。

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