比較文学
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論文
Hermeneutics,the New Historicism, and Comparative Literature Studies
ゴウベル ロルフ J.
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1989 年 31 巻 p. 294-272

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抄録

 近年、文学理論において、テキストと歴史との間の内的関係への関心が新たに深まってきている。この動きでは、一面では、デコンストラクシヨンやポスト、ストラクチュアリズムにおける、ある種のフォルマリスト的なやり方に対する反動として登場してきた。そうしたやり方は、歴史や歴史的理解といった範疇を抑えつけようとしがちだからである。本稿の中で筆者は、歴史の復権が比較的文学研究において、いかに大きな意味を持ち得るかを論じてみたい。歴史の範疇は文学理論に、相互に関連する二つの点で影響を及ぼす。まず、テキストとそれが生み出された時点の政治•社会治状況との関係という点で。次に、批評家自身の歴史性、すなわち、解釈が解釈者の歴史的状況に依存しているという点で。したがって、ハンス・ゲオルク・ガダマーの解釈学が示しているように、解釈は決して過去の客観的再構ではありえず、それはむしろテキストの地平との混合にならざるをえないのである。ガダマーは、伝統や解釈といったものが必ず言語によって構成されることを説き明したが、ここから私たちは歴史のテキスト性に関する議論へと導かれる。ハイドン・ホワイトが示すように、歴史は後の世代の人間にとって、純粋な事実として把握することのできるものでは決してない。そうではなくて、これらの事実はいつも歴史家によって書かれ、語られたテキストによって仲介されているのである。したがって、文学的ディスクールおよび歴史的ディスクールは、共通の地盤として、テキスト性、修辞上の構造、詩的要素をどちらも持っている。こうした仮定が、その他のいくつかの主張と併せて、新歴史主義によって文学批評に適用され、最近のルネサンス研究で開花したのでる。

 新歴史主義を標榜する代表的な批評家であるルイス・A・モントロースに焦点をあてつつ、筆者はこの運動を論じていきたいが、その際、これをミシェル・フーコーによる言説行為の定義とホワイトの歴史記述の理論を単に適用したもの、というように捉えることをせず、理解というものの歴史性を強調する解釈学との方に類似性を持つ批評の方法として考えていきたい。筆者は文学の自立という範疇を新歴史主義の方法論の中にどう組み入れていけばいいかという問題について、二三の提案をしたいと思う。結論として、筆者はこうした議論が比較文学研究にとって大変に大きな意義を持つ、ということを言っておきたい。なぜならば、批評家が異なる文化や時代から採られたさまざまなテキストの分析をする際に、理解というものの歴史性と言語性に対してその批評家は必ず特別の注意を払わなければならないのである。

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© 1989 日本比較文学会
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