比較生理生化学
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総説
ワモンゴキブリの末梢から高次中枢までの嗅覚情報処理機構
渡邉 英博
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2013 年 30 巻 3 号 p. 89-105

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抄録

夜行性で雑食性の不完全変態昆虫であるワモンゴキブリ(Periplaneta americana)は高い匂い識別能力と匂い学習能力を備えた昆虫である。また,その実験学的な扱いやすさから過去四半世紀の間,嗅覚の神経機構を探る電気生理学研究や解剖学研究,行動実験に広く用いられてきた。ワモンゴキブリは二本の鞭状の長い触角の表面に存在する,三種類の形態学的に異なる嗅感覚子によって,外界の匂い分子を取得する。これらの嗅覚情報は一次嗅覚中枢である触角葉を構成する205個の糸球体の時空間的な応答パターンに符号化され,高次嗅覚中枢であるキノコ体や前大脳側葉で異種感覚情報や記憶情報と統合される。本稿ではワモンゴキブリの嗅覚情報処理機構について触角嗅感覚系での嗅覚受容から,触角葉での一般臭の匂い情報処理機構について報告する。続いて,高次嗅覚中枢であるキノコ体や前大脳側葉で,これらの匂い情報がどのように処理されているのかを,最近の解剖学研究を中心に紹介する。現在,昆虫を用いた嗅覚情報処理機構の研究は遺伝学を中心にモデル生物であるショウジョウバエを中心にミツバチ,カイコガなどで目覚ましい発展を遂げている。これら完全変態昆虫の嗅覚系とワモンゴキブリのような不完全変態昆虫の嗅覚系を比較し,相同点,相違点を見出すことにより,昆虫の脳進化を理解する一助になるだろう。

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© 2013 日本比較生理生化学会
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