2017 年 34 巻 3 号 p. 62-69
キイロショウジョウバエの求愛行動は,複数の定型的な行動要素から構成される複合的な行動である。雄は交尾を達成するため,同種の雌を選んで求愛を開始し,一旦求愛を開始した後は複数の行動要素を一定の秩序の下に順次発現させて雌と相互作用する必要がある。雄特異的介在ニューロン群であるP1ニューロン群は,性決定遺伝子fruitlessを発現するニューロン群を構成するサブクラスの1つで,求愛行動発現の引き金を引く「トリガーニューロン」として同定された。P1ニューロン群は雄の求愛行動を活性化する雌フェロモン刺激下で活動し,その結果,目の前を移動する雌に対する視覚誘導性の定位行動と求愛歌の生成が活性化される。他方,求愛中の雄を用いたin vivo機能イメージング実験からはP1ニューロン群が定位行動と同期したCa2+応答を示すことがわかっており,このニューロン群が複数種の感覚性入力に依存しつつ,求愛行動制御の複数の側面に関わることが示唆される。本稿では筆者らの研究から明らかになった,感覚性因子やP1ニューロン群の活動と行動出力との間の関係をまとめつつ,現時点における求愛行動発現の制御機序についての知見の一端を紹介する。