2019 年 36 巻 3 号 p. 155-165
バクテリアから哺乳類に至るまで多くの生物が体内の生理的過程や行動に24時間周期の環境変化に対応した周期性,すなわち概日リズムを示す。社会性昆虫は,地球上で最も繁栄している分類群のひとつであり,真社会性という際立った生活形態を持つことからも,生理学的にも生態学的にも長年注目されている。本稿では私の研究対象であり労働の分業や発達したコミュニケーションといった高度な社会性を示すミツバチを中心に,社会性昆虫の概日リズムについて解説する。概日リズムは概日時計と呼ばれる生理的仕掛けによって生み出された時間情報に基づいて内因的に形成される。本稿では,まず,社会性昆虫に見られる概日行動リズムの特徴について,特に個体間の概日行動リズムの同調現象,および行動リズムが消えたり現れたりする現象である概日リズム可塑性にについて解説する。次に,解析が進んでいるショウジョウバエでの例を参考にしつつ,社会性昆虫を含む昆虫全般の概日時計の分子的な機構,および概日時計機能を担うとされる脳内における時計細胞の解剖学的な特徴について解説する。これらを通して,社会性昆虫に見られる特徴的な概日行動リズムの現象とその背景にある生理的な仕組みを概観する。