2020 年 37 巻 1 号 p. 53-61
動物の感覚器の一部が損傷を受けると,その感覚に依存する発現行動が不正確になる。しかしながら,神経ネットワークの再構築により,残された感覚器からのみの情報を用いて従来の行動を取り戻すことができる場合がある。このような神経系ならびに発現行動において見られる補償的な回復は,ヒトを含む多くの動物で見られるが,このような現象の基盤となるのは神経系のもつ可塑的性質であることは言うまでもない。しかしながら,そのような性質の発現がどのような要因によってコントロールされているのか等についての研究はあまり行われてこなかった。本稿では,空気流刺激に対する逃避行動の補償的回復について,我々がこれまでフタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)を用いて行ってきた研究を例に紹介する。