比較生理生化学
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総説
線虫Caenorhabditis elegans の低温馴化における温度感覚は酸素濃度の影響を受ける
岡畑 美咲太田 茜久原 篤
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2020 年 37 巻 2 号 p. 103-110

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抄録

脳・神経系においてどのように複数の感覚情報が統合や区別されているかについては,未知の点が多く残されている。本稿では,線虫C. elegans の低温馴化の解析から見つかってきた,神経回路における酸素と温度という2つの感覚情報の統合に関する最新の知見を紹介する。線虫は302 個の神経細胞からなる神経回路を構成しており,複数の感覚情報を統合・区別することによって,適切に環境の変化に適応している。最近,線虫の低温馴化現象に関わる新規の遺伝子としてKQT 型カリウムチャネルを見つけた。興味深いことに,このKQT 型カリウムチャネルの変異体が示す「低温馴化」の異常は,「環境の酸素濃度」が高くなるほど強くなることを偶然見つけた。神経回路レベルでは,酸素受容ニューロンと温度受容ニューロンが局所回路を形成し,この回路が低温馴化に関わっていた。カルシウムイメージング法を用いた解析から,温度受容ニューロンの温度に対する感度は,酸素受容ニューロンからの神経情報により調節されていることが分かった。この現象にKQT 型カリウムチャネルが関わっていた。つまり,酸素と温度という全く異なる2つの神経情報の統合に関わる分子と神経回路の生理的動態が見つかってきた。

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© 2020 日本比較生理生化学会
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