比較生理生化学
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総説
昆虫脳性分化機構の進化を探る: 不完全変態昆虫を材料とした研究から見えてきたこと
渡邊 崇之
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2020 年 37 巻 2 号 p. 130-138

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抄録

求愛行動や交尾相手をめぐる闘争行動などの性特異的行動は,脳・神経系に存在する性的二型神経回路により制御される。昆虫では,モデル生物であるキイロショウジョウバエを材料とした分子遺伝学研究により,行動の性的二型性を規定する脳・神経回路の性差を生み出す分子・細胞基盤が詳細に明らかにされてきた。ショウジョウバエでは,性特異的なスプライシング因子であるtransformer 遺伝子の下流でfruitless 遺伝子やdoublesex 遺伝子などの転写因子遺伝子から性特異的な遺伝子産物が生じ,これらを発現する神経細胞が形態的・機能的な性的二型を獲得する。ではtransformer 遺伝子やfruitless 遺伝子,doublesex 遺伝子を中心とした脳・神経回路の性決定メカニズムは,昆虫の様々な系統で種を超えた共通のメカニズムなのであろうか?本総説では,ショウジョウバエにおける脳・神経回路の性決定メカニズムに関する研究を振り返りながら,近年報告された非ショウジョウバエ昆虫,特に原始的な不完全変態昆虫におけるfruitless 遺伝子・doublesex 遺伝子の研究を紹介し,昆虫脳・神経回路の性分化機構の進化について分子進化学的な視点から解説する。

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© 2020 日本比較生理生化学会
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