2022 年 39 巻 2 号 p. 92-97
原生生物は単細胞生物であるため,他の生物から独立した生活を送っているように思われがちである。しかし,実際には,多くの原生生物は他の単細胞生物や多細胞生物と複雑な相互関係を築いている。例えば,捕食性の原生生物は,他の生物を獲物として認識し,捕獲する。一方,捕食者から逃れるためには,捕食者を正しく認識する必要がある。原生生物には,有性生殖のために,同じ種の異なる細胞型の細胞を認識するものがいる。また,細胞内で他の真核生物や原核生物と共生するものや,他の大型生物の体内で共生するものもある。また,動物に感染して病気を引き起こす原生生物もいる。最近の研究では,原生生物が他の生物を認識する仕組みが次々に明らかになってきており,その結果,原生生物と他の生物との細胞間相互作用の分子機構や,相互作用によって駆動される生物進化の様相について,多くのユニークな知見が得られてきた。本稿では,特に原生生物の餌生物の認識における細胞間相互作用について,その分子的・進化的な観点から焦点を当て,最新の研究成果を概説する。