植生史研究
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東京湾北部周辺における後期完新世の古植生の変遷
百原 新藤澤 みどり小杉 正人
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1993 年 1 巻 2 号 p. 59-70

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抄録

東京湾北部,松戸市の開析谷谷底の縄文時代中期以降の大型植物化石群を記載し,植物化石群の堆積環境の層位変化を考察した。植物化石群を下位よりI帯,11帯,Ⅲ帯に分帯した。I帯の植物化石群は,縄文時代中期,約4500~4000年前の砂層に狭在し,自生堆積性が低いと考えられ,復元される古植生の広がりは開析谷谷底から谷壁斜面を含む広い範囲におよぶ。木本は主にコナラとハンノキを含む落葉広葉樹種から構成され,常緑広葉樹を含まない。11帯の植物化石群は,約4COO年前以降,谷底部に抽水植物が繁茂することによって形成された草本泥炭に含まれる。草本とハンノキ,フジは自生堆積性が高いと考えられるが,ハンノキとフジ以外の木本の種実は,谷壁の生育地から烏によって谷底部まで運搬され,堆積したと考えられる。Ⅲ帯の植物化石群は中世以降の水田堆積物に含まれ,水田雑草が多い。縄文時代の東京湾北部周辺で材や大型植物化石がまれにしか産出しないアカガシ亜属とスギは,当時の植生中での個体数は少なく,分布が限られていたと考えられる。

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© 1993 日本植生史学会
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