植生史研究
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洞爺湖周辺における 最終氷期前期の木材化石群集と森林植生の復元
川村 弥生紀藤 典夫
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2003 年 11 巻 2 号 p. 73-85

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抄録

北海道の洞爺湖周辺において洞爺火砕流堆積物に覆われる層準および火砕流堆積物内から,最終氷期前期の木材化石群集を見出した。産出した木材化石の属構成をもとに下位からⅠ帯,Ⅱ帯,Ⅲ帯の化石帯に区分した。Ⅰ帯はトウヒ属,カラマツ属,モミ属などからなる。Ⅱ帯はハンノキ属・ヤナギ属やバラ属,スイカズラ属など落葉広葉樹が多い。Ⅲ帯はカバノキ属とトウヒ属が産出した。Ⅰ帯では,亜寒帯針葉樹が卓越しており,湿生地にはヤナギ属,スイカズラ属が生育していたと考えられる。Ⅱ帯は,湿生地の植生を反映していると考えられる。Ⅱ帯からはトウヒ属・モミ属・カバノキ属花粉が高い割合で産出し,後背地には亜寒帯針葉樹林が成立していたと考えられる。Ⅲ帯も同様に亜寒帯針葉樹林が成立していたと考えられる。洞爺テフラ(Toya)の年代およびこれまでの花粉分析による研究結果に基づくと,本研究のⅠ~Ⅲ帯は,酸素同位体ステージ5d~5cに対比される。本地域の木材化石群集は,これまでに知られる花粉組成と調和的で,花粉分析で検出された分類群が森林の主要構成要素となっていたと考えられる。最終間氷期から最終氷期への気候の変化が北海道の大きな植生の変化をもたらしたのは,北海道が冷温帯落葉広葉樹林と亜寒帯針葉樹林の境界近くに位置していたからであろう。

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© 2003 日本植生史学会
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