植生史研究
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東京都中央区八丁堀三丁目遺跡より出土した 江戸時代の木棺の形態と樹種
鈴木 伸哉能城 修一
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2004 年 12 巻 2 号 p. 75-86

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抄録

東京都中央区八丁堀三丁目遺跡の17世紀前半を主体とする一般都市住民層の墓域より出土した円形木棺と方形木棺について,当時の身分・階層差の影響と,森林資源枯渇の影響を評価した。円形木棺・桶製骨蔵器484基と方形木棺41基の部材,および卒塔婆23本をあわせて1418点の樹種を同定し,木棺材の木取りおよび厚さを計測した。円形木棺・桶製骨蔵器にはサワラを中心とした材が用いられていた。方形木棺にはスギや,ヒノキ,サワラなどの材が用いられており,使用される樹種にばらつきがあることから,転用棺である可能性が高いと考えられた。こうした用材は,将軍家・大名家の墓の用材と異なっており,当時の身分差・階層差が木棺の用材に反映したと考えられる。円形木棺は,側板・底板・蓋板の各部材が時期が下るにつれて薄くなる傾向にあり,とくにサワラ製とヒノキ製の部材に著しかった。古植生の研究や文献史料研究の成果と対比すると,八丁堀三丁目遺跡より出土した17世紀前半の円形木棺・桶製骨蔵器は,おもに木曽川・天竜川流域にまとまって分布するサワラなどの移入材によって製作された量産品であると想定された。また,都市における木材需要の増大による木材供給源の枯渇が,円形木棺の用材の厚さの低下および樹種の多様化に反映していると想定された。遺跡内の木製埋葬施設の間には,身分・階層差の影響は認め難いことから,八丁堀三丁目遺跡の墓域は身分制度確立の過渡期的様相を示していると考えられる。

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© 2004 日本植生史学会
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