植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
Print ISSN : 0915-003X
福井県中池見後期更新世堆積物の花粉分析からみた植生史
大井 信夫北田 奈緒子斉藤 礼子宮川 ちひろ岡井 大八
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2004 年 12 巻 2 号 p. 61-73

詳細
抄録

福井県中池見の堆積物は下部砂礫層と上部有機質層に二分され,上部有機質層は阿多(Ata),鬼界葛原(K-Tz),姶良Tn(AT),鬼界アカホヤ(K-Ah)などの火山灰をはさむ後期更新世以降の有機質に富んだシルトである。堆積盆中の北部2地点,中央部1地点,南部2地点において,上部有機質層のATより下位について花粉分析を行い,盆地および周辺における植生分布の様式を復原し,環境変遷を議論した。上部有機質層は堆積盆中央部で堆積がはじまり,全般にスギ属花粉が優占する。北部ではスギ属花粉に伴ってコナラ属コナラ亜属花粉が産出し,中央部ではハンノキ属花粉が多く,南部ではスギ属花粉が優占することから,北部の山地にはコナラ亜属の森林が,中央部にはハンノキ湿地林が,南部の谷筋にスギ林が復原される。約8万年前には,湖沼が南部にまで広がったクリ属/シイノキ属花粉が優占する時代と,落葉広葉樹花粉が産出する時代とがあり,その後,湖沼が北部に広がった。約5万年前にアジサイ属花粉が一時的に多産し,これを境にハンノキ属とミズバショウ属花粉が増加し,コウヤマキ属花粉の減少とヒノキ科花粉の増加が見られる。堆積物にも有機物が増え,中央部と南部を中心に湖沼環境が卓越していたのが,堆積盆全体にハンノキ林が広がった。AT降下前には,最終氷期最盛期へ向かう寒冷乾燥化を示唆するようにツガ属や,マツ属,カバノキ属花粉が増加し,中央部はカヤツリグサ科を中心とする湿原となった。

著者関連情報
© 2004 日本植生史学会
次の記事
feedback
Top