植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
Print ISSN : 0915-003X
微粒炭の母材植物特定に関する研究
小椋 純一
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2007 年 15 巻 2 号 p. 85-95

詳細
抄録

過去の植生や,それに対する人為などによる火の影響を知る上で,泥炭や土壌に含まれる微粒炭は重要な手がかりになると考えられる。ここでは,はじめに微粒炭の母材植物に関する筆者のこれまでの研究の概要についてまとめた。まず,微粒炭の長軸と短軸の比に着目した先行研究を受け,日本国内に自生する植物20 種あまりの微粒炭の長短軸比についての考察を行った。その結果,日本においても微粒炭の長短軸比は,燃えた植生のタイプを考える上で参考になると考えられるが,例外的な値を示す植物がいくつか確認できることから,微粒炭の長短軸比から燃えた植生タイプを推定するには,より慎重である必要があると考えられる。一方,土壌などから見つかる微粒炭の表面形態を観察すると,実験的に燃焼させて生成した微粒炭標本では見られないタイプのものがある一方,標本では時々見られる気孔などの特徴的な組織がほとんど見られないことが多い。数種の草本類と木本植物を対象として,温度条件の違いにより微粒炭の形態がどのように変化するかを調べてみた結果,同じ植物種でも,燃焼温度の違いにより,一般に生成される微粒炭の形態タイプの割合は変化すること,燃焼温度の違いによる微粒炭の形態タイプの割合変化のパターンは,植物種により異なることが確認された。微粒炭分析にはまだ課題も多いが,いくつかの応用的研究例から,出現する微粒炭を総合的に検討することにより,微粒炭の母材植物,またその集合としての植生を,何らかのレベルで明らかにすることができる場合が少なくないものと考えられる。その際,どの程度のレベルで明らかにすることができるかどうかは,元の植生の組成の単純さや複雑さなどによる。また,花粉分析などの古植生に関する成果があれば,それは大いに参考になる。

著者関連情報
© 2007 日本植生史学会
前の記事 次の記事
feedback
Top