植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
Print ISSN : 0915-003X
15 巻, 2 号
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  • 日本の火災史研究におけるその役割
    井上 淳
    2007 年 15 巻 2 号 p. 77-84
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/06/16
    ジャーナル オープンアクセス
    微粒炭は,山火事や火入れなどによって生じる微細な炭である。堆積物中の微粒炭の定量分析に基づいた火災史の復元が行われている。日本での堆積物の微粒炭分析から,後期更新世末から完新世前半に火災が増加したことが明らかになっており,火災により植生が撹乱された可能性が示唆されている。日本での微粒炭研究は主に100 μm 以下のmicro-charcoal を用いたものであるが,近年100 μm 以上のmacro-charcoal の研究が注目を集めている。macro-charcoal は近隣の火災史を記録していると考えられており,分析の過程で微粒炭の破壊を最小限にできること,微粒炭とその他の粒子の区別が容易であること,短時間で効率よく分析が行えることなどの利点をもつ。本稿では,これらmacro-charcoal 研究の重要性とその分析方法について紹介する。
  • 小椋 純一
    2007 年 15 巻 2 号 p. 85-95
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/06/16
    ジャーナル オープンアクセス
    過去の植生や,それに対する人為などによる火の影響を知る上で,泥炭や土壌に含まれる微粒炭は重要な手がかりになると考えられる。ここでは,はじめに微粒炭の母材植物に関する筆者のこれまでの研究の概要についてまとめた。まず,微粒炭の長軸と短軸の比に着目した先行研究を受け,日本国内に自生する植物20 種あまりの微粒炭の長短軸比についての考察を行った。その結果,日本においても微粒炭の長短軸比は,燃えた植生のタイプを考える上で参考になると考えられるが,例外的な値を示す植物がいくつか確認できることから,微粒炭の長短軸比から燃えた植生タイプを推定するには,より慎重である必要があると考えられる。一方,土壌などから見つかる微粒炭の表面形態を観察すると,実験的に燃焼させて生成した微粒炭標本では見られないタイプのものがある一方,標本では時々見られる気孔などの特徴的な組織がほとんど見られないことが多い。数種の草本類と木本植物を対象として,温度条件の違いにより微粒炭の形態がどのように変化するかを調べてみた結果,同じ植物種でも,燃焼温度の違いにより,一般に生成される微粒炭の形態タイプの割合は変化すること,燃焼温度の違いによる微粒炭の形態タイプの割合変化のパターンは,植物種により異なることが確認された。微粒炭分析にはまだ課題も多いが,いくつかの応用的研究例から,出現する微粒炭を総合的に検討することにより,微粒炭の母材植物,またその集合としての植生を,何らかのレベルで明らかにすることができる場合が少なくないものと考えられる。その際,どの程度のレベルで明らかにすることができるかどうかは,元の植生の組成の単純さや複雑さなどによる。また,花粉分析などの古植生に関する成果があれば,それは大いに参考になる。
  • 小畑 弘己, 佐々木 由香, 仙波 靖子
    2007 年 15 巻 2 号 p. 97-114
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/06/16
    ジャーナル オープンアクセス
    土器圧痕を詳細に転写することが可能な「レプリカ法」の発達によって,縄文時代の土器付着圧痕であっても種のレベルでの栽培植物の検討が可能になった。その中で従来不明種子と扱われてきた「ワクド石タイプ」圧痕がマメ科種子のへそであるという推定に基づき,へその形状からみた種の同定をおこなった。その結果,「ワクド石タイプ」圧痕が,島原半島や熊本平野を中心とした遺跡から出土した「大型マメ種子」圧痕のへそと同一であることを見い出し,これらと現生マメ科種子との形態の比較研究から,この「大型マメ種子」が栽培ダイズの一種であると推定した。そして,縄文時代後期中頃(BC1600 年頃)にイネやオオムギなどの穀物とともにこれら栽培ダイズが朝鮮半島から伝来したと想定した。
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