植生史研究
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岡山県上東遺跡出土の弥生土器に付着した炭化物の由来を探る
庄田 慎矢松谷 暁子國木田 大渋谷 綾子
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2011 年 20 巻 1 号 p. 41-52

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抄録
煮炊きに使用された土器の内面に付着した炭化物の由来を探ることは,先史時代の食用植物の利用形態の復元に重要な役割を果たす。縄文時代の土器付着物に比べ弥生時代の分析事例は極めて少ないため,弥生土器による炊事の研究も活発に行う必要がある。本論では,内面付着炭化物が極めて良好な状態で検出された岡山県上東遺跡の弥生土器内面付着物を,煮炊き痕跡と炭化物の産状の観察に基づいてサンプリングし,①走査型電子顕微鏡による観察,②炭素・窒素安定同位体比の測定,③残存デンプン粒分析の三つの手法によって検討した。その結果,付着物の顕微鏡観察でイネ頴果の果皮の一部である横細胞層が観察されたことから,この付着物は,糠層が残存している状態のイネ頴果と考えられた。また安定同位体比はC4 植物の寄与を示さなかったため,この炭化物がイネ由来であるという見解が傍証された。一方残存デンプン粒分析からは,根茎・球根類を含む他の食物も調理していた可能性が示唆されたが,サンプリングにおける問題から同一土器による調理物か否かの断定はできなかった。解決すべき課題も多く残されたが,本研究で示したような総合的な方法による研究事例を蓄積することで,弥生時代の食用植物利用についての有力な議論の材料が得られることが期待される。
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© 2011 日本植生史学会

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