植生史研究
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茨城県花室川堆積物の花粉・ 木材化石からみた最終氷期の環境変遷と絶滅種ヒメハリゲヤキの古生態
吉田 明弘鈴木 三男金 憲奭大井 信三中島 礼工藤 雄一郎安藤 寿男西本 豊弘
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2011 年 20 巻 1 号 p. 27-40

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抄録
茨城県南部の花室川中流域における地質調査と堆積物の14C 年代測定,花粉分析,木材化石の樹種同定の結果から,この地域における最終氷期の環境変遷と絶滅種のヒメハリゲヤキの古生態的な特徴について考察した。この地域の台地では,約5.0 万年前以前~ 4.3 万年前には最終氷期のなかでも比較的に温暖な気候環境下でカバノキ属やコナラ亜属を主とする冷温帯性落葉樹林が分布し,約3.8 ~ 3.5 万年前には寒冷化に伴って,冷温帯性落葉樹と亜寒帯性針葉樹の混交林となった。その後,約3.5 ~ 1.7 万年前には寒冷な気候となり,森林はマツ属単維管束亜属やトウヒ属を主体とする亜寒帯性針葉樹林へと変化した。一方,緩斜面や河床では,約5.0 ~ 2.4 万年前にはハンノキやヤナギ属の湿地林が形成された。約2.5 万年前以降の谷底では泥炭地が形成され,その上にカヤツリグサ科やヨモギ属などの草原が広がった。この地域では,ヒメハリゲヤキが少なくとも約5.0 ~ 4.3 万年前まで冷温帯の気候環境下で生育し,その後の最終氷期極相期における寒冷化が原因となって絶滅した。当時のヒメハリゲヤキは,地下水位の変動や土壌撹乱の著しい不安定な地形環境に立地していた可能性が高い。
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© 2011 日本植生史学会

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