植生史研究
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弥生時代から古墳時代の西日本における鋤鍬へのイチイガシの選択的利用
能城 修一 村上 由美子佐々木 由香鈴木 三男
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2017 年 27 巻 1 号 p. 3-15

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抄録

関東地方で報告されたイチイガシの選択的利用が,弥生時代から古墳時代の西日本においても存在するかを,この時代の木製品類が多数出土していて樹種同定用プレパラート標本が保管されている九州から北陸・東海地方の14遺跡で検討した。その結果,現在のイチイガシの分布範囲では,鋤鍬の完成品,未成品,原材でイチイガシあるいはイチイガシの可能性の高い樹種が40~80%を占め,イチイガシ以外のアカガシ亜属が残りの20~50%を占めていた。イチイガシの分布範囲から外れる鳥取県青谷上寺地遺跡や石川県八日市地方遺跡ではイチイガシ以外のアカガシ亜属が60 ~ 90%選択されていた。分布範囲の外でも島根県西川津遺跡ではイチイガシが多用され,青谷上寺地遺跡におけるイチイガシの利用,鳥取県と島根県でのイチイガシの大型植物遺体の出土状況から考えて,鳥取県と島根県には弥生時代から古墳時代にイチイガシが自生していたと想定された。樹種および器種ごとに放射径をみると,鋤鍬と泥除の放射径はこれ以外の木製品類に比べて大きく,それらの素材の調達には多大な労力を要したと考えられた。西日本の14 遺跡では,完成品や未成品,原材の比率から鋤鍬の製作場所や流通を推定することは困難であった。水田稲作農耕が中国大陸から朝鮮半島南部を経由して九州北部にもたらされたことや現在のコナラ属植物の分布から考えて,イチイガシの鋤鍬への選択的利用は九州北部で成立したと想定された。

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© 2017 日本植生史学会
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