植生史研究
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北海道南部万畳敷湿原の花粉分析からみた完新世の植生変遷
吉田 明弘鈴木 智也土屋 美穂紀藤 典夫鈴木 三男
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2019 年 28 巻 1 号 p. 3-12

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抄録

北海道南部万畳敷湿原(標高660 m)で採取したボーリング試料の14C 年代測定とテフラ分析,花粉分析の結果から,この湿原周辺における詳細な時間軸に沿った完新世の植生変遷を明らかにした。万畳敷湿原の周辺地域では,約10,000 cal BP にはダケカンバと針葉樹の混交林が広がり,約9500 ~ 6800 cal BP にはダケカンバが優勢な落葉広葉樹林となり,約6800 ~ 1100 cal BP にはミズナラを主体とした落葉広葉樹林となった。また,湿原周辺では約5500 cal BP からブナが定着し,約1100 cal BP 以降にはブナの優占する森林が形成された。この結果に基づき,亀田半島における先行研究との対比を行い,この地域における最終氷期末期以降の森林植生の時空間的な変遷を考察した。その結果,約15,000 ~ 12,000 cal BP の亀田半島では,冷涼な気候下でトウヒ属やモミ属が卓越する亜寒帯性針葉樹林が広く分布していたが,約12,000 ~ 10,000 cal BP には気候の温暖化に伴って,カバノキ属やコナラ亜属の落葉広葉樹林が拡大し,約10,000 ~ 5000 cal BP にはコナラ亜属が優占する冷温帯性落葉広葉樹林になった。約6000 ~5500 cal BP には,亀田半島の各地でブナが定着を開始する。このブナの定着開始は,駒ケ岳火山によるテフラ降下の影響があった可能性が高い。その後,約3000 ~ 1000 cal BP までには亀田半島の各地でブナ林が形成された。

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© 2019 日本植生史学会
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