植生史研究
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ヤチカンバ花粉の識別と北海道東部の 西別湿原における 6500 年前以降の植生史
吉川 昌伸鈴木 三男佐藤 雅俊小林 和貴長谷川 健吉川 純子戸田 博史
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2021 年 29 巻 2 号 p. 37-52

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抄録

ヤチカンバは東シベリアから中国東北部,北朝鮮に分布するカバノキ属の低木種で,北海道の 2 箇所の自生地は分布域の南限のひとつに当たり,氷河期の遺存種とされている。自生地の一つ,別海町西別湿原にヤチカンバがいつから生育していたのかを明らかにするため,1)北海道に自生するカバノキ属 5 種の花粉形態を詳細に検討して,ヤチカンバの花粉を他の種から区別できる形質を探索し,2)その形質を用いて,堆積物中のカバノキ属花粉にヤチカンバ花粉が含まれるかどうかを経時的に調べた。カバノキ属 5 種の花粉の赤道長(E),外孔長(EP),孔深度(PD)を測定し,赤道長 / 外孔長比(E/EP)と赤道長 / 孔深度比(E/PD)を求めた結果,ヤチカンバには E/EP 比と E/PD比が他のカバノキ属よりも大きな値になる花粉が存在することが明らかになった。西別湿原でハンドボーリングにより堆積物を採取し,テフラ分析および堆積物の 14C 年代測定を行った結果,堆積物は 6500 cal BP から現在までのものであることがわかった。各層準の堆積物にはカバノキ属花粉が 4–34%含まれており,このうちの 7–50%がヤチカンバ以外のカバノキ属よりも E/EP 比の大きな花粉であることが明らかとなった。以上の結果から,西別湿原には 6500 cal BP 以降,現在までヤチカンバが継続して生育していた可能性が高いと考えられた。

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© 2021 日本植生史学会
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