植生史研究
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三木茂博士採集の三重県多度産標本から復元した最終氷期の温帯性フロラの多様性
百原 新工藤 雄一郎三宅 尚中村 俊夫門叶 冬樹塚腰 実
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2021 年 29 巻 2 号 p. 53-68

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抄録

本論文では三木茂博士が三重県桑名市多度で採取し,大阪市立自然史博物館に保管されている大型植物化石標本を再検討し,形態を記載した。標本の放射性炭素年代測定を実施し,MIS 3 に相当する 40,300–39,070 cal BP と最終氷期最寒冷期後半の 21,920–20,270 cal BP の 2 つの時代に形成された植物化石群に由来することが明らかになった。最終氷期最寒冷期の化石群はツガ,トウヒ属バラモミ節,カラマツ,ヒノキといった温帯性針葉樹が優占し,カツラ,サワグルミ,イヌブナ,アサダなどの温帯性広葉樹の多様性が高かった。ツガ属球果と同定された化石標本に付着した堆積物の花粉分析結果は,多度川沿いに発達した針広混交林の周囲に温帯性針葉樹林が広がっていたことを示していた。亜高山針葉樹林は付近の山地帯に分布しており,針広混交林とは隣接していたと考えられる。多度周辺の地域は最終氷期最寒冷期には太平洋と日本海の中間の内陸に位置していたが,その温帯性落葉広葉樹を含む植生はマツ科針葉樹が優占していた当時の中部日本での温帯性樹木のレフュージアだったと考えられる。博物館標本の再検討は最終氷期の古植生分布を復元する上で重要である。

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© 2021 日本植生史学会
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