植生史研究
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サハリン最北端シュミット半島に分布する エゾマツ,グイマツの共存条件とそれから推定される 最終氷期の北海道における両種の共存状態
沖津 進
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1999 年 7 巻 1 号 p. 3-10

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抄録

サハリン最北端のシュミット半島で,エゾマツ林,グイマツ林の森林構造や両種の樹種の樹形,成長を調査し,シュミット半島での2種の共存条件を考察した。さらに,最終氷期の北海道で両樹種がどのように共存していたかを推定し,後氷期におけるグイマツの消滅要因について展望した。シュミット半島のエゾマツの成長速度は最小限近くにまで落ち込んでいた。エゾマツとグイマツの共存条件は,エゾマツの成長が最小限近くにまで落ち込んでいてエゾマツ林成立可能適地が狭まっていること,および,山火事などの攪乱が頻繁に起こり,開放地が出現することであった。最終氷期の北海道北部では,極相期および晩氷期最末期を中心に,エゾマツと共にグイマツが量的に多く分布していたが,両種の共存条件は二つの時代で異なっていた。極相期にはグイマツ林もエゾマツ林も共にある程度まとまって分布し,樹冠面積合計は少なくとも0.5 ha/ha程度には達してかなり発達した森林であったと推察された。グイマツ林がエゾマツ林と共に発達した原因として,現在よりも乾燥条件が著しかったことが挙げられた。晩氷期最末期は,エゾマツ林からグイマツ林,ミズナラ林へと移り変わった。この変化には,最終氷期から後氷期にかけての温暖化と攪乱環境の増大が関与していると考えられた。後氷期にグイマツが北海道から消滅した原因は,温暖化と攪乱環境の増大に伴い,ミズナラなどの落葉広葉樹が著しく増加したことにあると推察された。

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© 1999 日本植生史学会
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