2018 年 29 巻 p. 1-9
本研究では温暖な西南日本に位置する宇和海沿岸に散見されたベチベルソウの来歴、利用例、種子の結実 の有無の評価を目的とした。種の同定はDNA バーコーディングを用いた分子同定および小穂の形態観察に 基づいて行った。地域の農家によれば、ベチベルソウははじめに1950 年代頃に蜜柑の苗木を潮風から保護 するため、あるいは段畑の土壌流亡防止のために導入されていた。ベチベルソウはそのほとんどが段畑内に 観察され、逸出個体は見つからなかった。刈り取ったベチベルソウの葉は今日まで蜜柑や自給的に栽培され ている野菜のマルチとして利用されていた。また最近まで無性生殖により増殖したベチベルソウの苗の植裁 が継続されていた。2017 年に3 ヶ所に分布していた8 クローンから採取された18 の花序の観察では種子 は見つからなかった。これら結果は、対象地域のベチベルソウの系統にはおそらく雑草性が無く、国内の沿 岸温帯地域で良好に生育できることを示唆している。