北海道畜産草地学会報
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原著
軟化に必要なエゾシカ肉の熟成期間について
島田 謙一郎 宇佐川 淳子今野 宗韓 圭鎬福島 道広関川 三男
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2022 年 10 巻 1 号 p. 17-24

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抄録

北海道ではエゾシカを農林業へ被害を与える害獣として処理するだけでなく,エゾシカを食肉として利用する試みが進んで,北海道では精肉が流通するようになっている。しかし,エゾシカ肉の熟成に関する情報はあまり知られていない。そこで, 3〜5才齢のと殺した雄エゾシカ3頭から半腱様筋を採取し,4℃で貯蔵した。pH,剪断値,筋原線維の小片化率,筋原線維タンパク質の変化を調べた。pHはと殺12時間後に最も低い5.65を示した。剪断値はと殺1日目で1.45 kg/cm2からと殺5日目で0.82 kg/cm2まで低下し,それ以降はと殺21日目まで僅かに低下し0.69 kg/cm2となった。筋原線維の小片化率は,と殺直後は0.14を示し,と殺10日目で0.63まで増加し,それ以降はと殺21日目まで横ばいに推移した。筋原線維タンパク質の分解の程度を調べるため,2%均一ゲルによる解析では,と殺10日目でα-コネクチン(タイチン-1)のバンドが完全に消失し,β-コネクチン(タイチン-2)のみのバンドとなった。12.5%均一ゲルでは30 kDa成分と思われるバンドがと殺7日目で明確となり,と殺日数に伴い染色強度が増した。抗トロポニンT抗体を用いたウェスタンブロッティング法ではと殺10日目でトロポニンTの陽性バンドが殆ど消失し,トロポニンTの分解産物と思われる30 kDa付近のバンドが幾つか見られた。そのバンドのうち最も染色強度の強い陽性バンドはと殺10日目と14日目であった。抗デスミン抗体によるウェスタンブロッティング法ではデスミンの陽性バンドはと殺日数に伴い染色強度が弱くなり,デスミンの分解産物と思われる38 kDa断片はと殺10日目に明確に出現した。電気泳動の染色像で30 kDaと思われるバンドの染色強度からアクチンの染色強度で補正した染色強度のグラフではと殺10日目で最大となった。以上の結果から,エゾシカ肉はと殺12時間後に極限pHに達し,剪断値ではと殺5日目以降で最低値を示し,筋原線維の小片化率ではと殺10日目で最大となり,主な筋原線維タンパク質の分解はと殺7日目から14日目の間で起こるため,十分な軟らかさを得るための熟成期間はと殺7〜10日間であると結論した。

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