2019 年 7 巻 1 号 p. 31-37
牛心筋を骨格筋と同様に低温下における熟成を行い、牛心筋が熟成に伴い軟化するのか否かを物性および筋原線維構造の両面から検討した。剪断値および貯蔵弾性率の結果より、と畜後6~12時間の間に最も硬くなり、その後しだいに軟らかくなり、熟成1日目にはと畜直後付近まで軟らかくなり、それ以降は変化しなかった。と畜6時間後のサルコメア長は1.69μmまで短縮しており、と畜24時間後には1.87μmまでサルコメア長は復元していた。物性およびサルコメア長の結果から牛心筋はと畜6時間~12時間くらいに死後硬直が最大に達して、その後、アクチンとミオシンの硬直結合の解除によりサルコメア長の復元および剪断値の低下が起きたと推察された。また、筋原線維の小片化率は、と畜2日目で最大になったが、数値はそれ程高くなかった。筋原線維タンパク質の分解の程度を調べるためにSDS-PAGEによる解析でも主要な筋原線維タンパク質の分解は認められなかった。さらに抗トロポニンTモノクロナール抗体によるウェスタンブロッティング法による解析でも分解は認められなかった。以上の結果から牛心筋はと畜後に死後硬直を起こし、硬直結合の解除に伴い軟化することが明確となった。しかし、軟化の度合いはそれほど大きくなく、その変化は骨格筋と異なることが明らかとなった。