歴史言語学
Online ISSN : 2758-6065
Print ISSN : 2187-4859
日本語文字表記史の課題と研究方法
古代の萬葉仮名表記を例に
尾山 慎
著者情報
キーワード: 表語, 表音, 仮名, 文字, 表記論
ジャーナル フリー

2024 年 13 巻 p. 117-133

詳細
抄録
古代日本語は漢字だけで書かれているが,表語用法と表音用法を交ぜ,後世の漢字仮名交じりに通じる方法がすでに模索されている。このとき,「於オ保ホ岐キ美ミ」のような萬葉仮名表記は確実な語形の復元にあたって重要とされ,古代語の研究は多く,かかる用例を足がかりにしてきた。しかし,仮名による語形復元の絶対性を期待しすぎると,必然的に仮名の音節は揺るぎないという前提を作り上げる。そもそも文字表記は,音声を忠実に復元する道具ではない。その代表が訓仮名であるが,この仮名が,音仮名そして表語の漢字とも併用されているのが古代の表記の実態である。そこでは,文字や表記が表す音の根拠と,それによる語形復元が試みられるが,テクストに用例を閉じて統計的研究をすることで,循環論のリスクを孕む。この問題及び,その打開方法を論じ,漢字以外の文字も使われるようになる後代も含めた日本語文字表記論の課題と見通しを述べる。
著者関連情報
© 2024 日本歴史言語学会
前の記事 次の記事
feedback
Top