保健師教育
Online ISSN : 2433-6890
活動報告
看護師基礎教育課程における地域ケア実習の教育評価
加藤 昌代藤井 広美小松 実弥大木 幸子
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2020 年 4 巻 1 号 p. 68-76

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Abstract

【目的】2年次に看護師教育として実施している地域包括支援センターあるいは地域活動支援センター等障害者施設での実習(以下地域ケア実習)について,学生の自己評価を用い,学習成果を明らかにすることを目的とした.

【方法】地域ケア実習の履修学生84名を対象に,実習前後における地域のケアに関連する学習目標28項目の習得状況について,集合法による無記名自記式質問紙調査を実施した.実習前後で回答の得られた72名を分析対象とし,記述統計,ウィルコクスンの符号順位検定,及び自由記述の分析を行った.

【結果】地域包括支援センターで実習を行った学生は,地域のケアに関連する学習目標全28項目において,実習前より実習後で自己評価が高くなり有意差がみられた.地域活動支援センター等障害者施設で実習を行った学生をみると,有意差がみられた項目は28項目中23項目であった.

【考察】2年次の地域での実習は学生の地域ケアに関する実践力の習得に有効であることが示唆された.

Translated Abstract

[Purpose] The purpose of this study was to clarify the learning outcome of practical training at community general support centers or facilities for persons with disabilities such as community activity support centers (hereinafter referred to as “community care practical training”), which is implemented as nursing education in 2nd year, based on the student’s self-evaluation.

[Methods] An anonymous self-reported questionnaire survey was conducted by the collective method on the acquisition of 28 section learning objectives related to community care before and after the practical training for 84 students who participated in practical training. Date from 72 students who responded survey before and after the practical training were analyzed using descriptive statistics, the Wilcoxon signed-rank test, and free descriptions analysis.

[Results] The students who received practical training at community general support centers got higher self-evaluations on all 28 learning objectives related to community care after the practical training than before it, and significant differences were found in all of the learning objectives. Among students who received practical training at community activity support centers, etc., significant differences were found in 23 learning objectives.

[Discussion] The results suggest that practical training in a community in the 2nd year is effective for students to acquire practical nursing skills related to community care.

I. はじめに

近年の急速に進む超高齢社会を背景に,「地域包括ケアシステム」の構築が喫緊の課題となっている.このような中,厚生労働省(2011)による「看護師に求められる実践能力と卒業時の到達目標」や,文部科学省(2011)による「学士課程教育においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標」(以下,卒業時到達目標とする)が示され,看護師教育課程における卒業時到達目標に地域における看護活動に関連する項目が含まれている.看護師教育においては,患者を「地域で生活する人」と捉え,支援するために,地域包括ケアを実践できる人材の育成が求められており(西崎ら,2015),日本地域看護学会平成27~28年度教育委員会(2017)は,看護基礎教育において,地域ケアの概念や方法論を教授する必要性を指摘している.このような地域ケアのための看護実践能力の養成には,「地域看護学」の教育が基盤となると考えられる.「地域看護学」とは,多様な場で生活する,様々な健康レベルにある人々を対象とし,その生活を継続的・包括的にとらえ,人々やコミュニティと協働しながら効果的な看護を探究する実践科学であり,保健師,助産師,看護師の看護職に共通して求められる知識や能力を培う,基盤となる学問と位置づけられている(日本地域看護学会,2019).

しかし,2011年に改正された保健師助産師看護師法における指定規則では,看護師教育をみると,「地域看護学」の位置づけが不明瞭であった.そのため,看護師基礎教育における地域看護学の教育の内容及び到達度は,各大学間で多様な状況にあることが指摘されている(有本ら,2017).また藤本ら(2018)は,看護基礎教育における地域包括ケアシステムに関する教育内容は複数の科目に関連し,重複して学ばれており,どのような教育内容を教授するのかについての具体的な内容は看護基礎教育機関に任されている現状となっており,教員も困難感を抱えていると指摘している.一方で,安藤ら(2018)は,看護師課程における地域看護学の必要性に関する看護教員の認識について,看護教員の7割以上が看護師課程における地域看護学の必要性を認識していると述べている.

2019年に示された看護師教育に関する指定規則(厚生労働省,2019)では,従来の「在宅看護論」4単位が「地域・在宅看護論」6単位とされ,「看護師教育の基本的考え方,留意点」に「地域で生活する人々とその家族を理解し,地域における様々な場での看護の基礎を学ぶ内容とする」と示された.しかし,臨地実習の総単位数の変更はなく,専門分野の実習単位は最低単位が示すこととされ,「地域・在宅看護論」の最低単位は従来の2単位のままである.すなわち,「地域・在宅看護論」の実習内容に「地域看護学」の内容をどこまで含むかは,各教育機関の裁量によって大きく異なることが予想される.

看護師教育における地域看護学の教育目標と達成レベルに関する先行研究では,表(2017)は,臨床から生活の場への連続性を担保するための力を身につけるために,さまざまな健康レベルとライフサイクルの人々への理解と,地域全体の外観を捉える力が必要となると述べている.また,安藤ら(2018)による看護教員への看護師教育課程の地域看護学として必要と考える教育内容の調査では,「生活者としての対象理解」,「健康増進・疾病予防」,「対象を中心とした連携・協働」が示されている.さらに,地域看護学教育の達成レベルに関しては,全国保健師教育機関協議会教育課程委員会(2017)は,看護師教育において「地域看護学」を教授している教育機関へのインタビュー調査の中で,地域アセスメント及び地域ケアシステムの構築に関して,教育機関によって知識として理解するレベルと実施できるレベルとに教育の取り組みが異なっていた,と報告している.このように看護師教育における地域看護学教育の達成レベルは,地域で生活する人への看護に関する学習を中心とした意見,地域を対象とする看護活動の実践力の育成まで広げる意見に分かれている.

次に教育方法・時期と学習効果については,有本ら(2017)は,3年次の高学年にフィールドワークを取り入れた地域看護診断の理論と方法論を教授する地域診断演習について,卒業時到達目標の「地域の特性と健康課題を査定する能力」,「健康の保持増進と疾病を予防する能力」等の看護実践能力の修得に寄与したとしている.また,岡本ら(2012)は,1年生,2年生の基礎実習に取り入れた地域での早期体験実習を通して,人々の生活を知ることで対象者の理解が深まったと述べている.加えて,大澤ら(2012)は看護専門基礎科目と並行する早い段階から,住民の生活環境を観察する実習を取り入れた成果として,その後学習する看護過程の展開において対象を理解する視野の拡がりが得られたと報告している.一方で,影山ら(2019)は,1年次から4年次の学生がチームを編成し,各学年1単位ずつの必修科目として,継続して高齢者に対して予防的家庭訪問を行う実習は,「生活」への視点や「生活者」の背景にある「地域」へ視点の学習効果があると述べており,演習・実習の時期についても,低学年と高学年,全学年とさまざまな報告がある.また,佐藤(2014)は,臨地実習でさまざまな健康レベルの対象者に接する体験が重要であると報告している.

つまり,看護師教育において地域看護学教育に積極的に取り組んでいる機関においても,その教育内容や教育方法が多様な現状にあるといえる.

このような中,A大学では,2010年度より,看護師教育課程の必修科目として,2年次の講義とあわせて直接地域の生活の場に出向き,対象者の生活を見聞きする地域ケア実習を導入している.本実習は,低学年のうちに地域の生活に目を向け,生活者としての対象理解の視点を獲得することを重視しており,その後の各専門分野の看護教育における基礎的学習に位置づけている.看護師教育における地域看護学の実習の在り方について各教育機関に共通の見解が定まっていない現状において,本実習の学習成果の評価は,看護師教育に関する指定規則(厚生労働省,2019)で示された「地域・在宅看護論」における実習内容の検討のための基礎的資料としての意義を持つと考える.

II. 目的

本調査の目的は,A大学において看護師教育として2年次に実施している地域ケア実習に関する学生の自己評価をもとに,その学習成果を明らかにすることである.

なお本論文で,「看護師教育」とは,看護師免許取得に必要な教育課程,「保健師教育」とは,保健師免許取得に必要な教育課程と定義した.また「地域看護学」は,前述の日本地域看護学会の「多様な場で生活する,様々な健康レベルにある人々を対象とし,その生活を継続的・包括的にとらえ,人々やコミュニティと協働しながら効果的な看護を探究する実践科学であり,保健師,助産師,看護師の看護職に共通して求められる知識や能力を培う,基盤となる学問」という定義を用いた.「地域ケア」とは,「地域で生活する人々への直接的なケア提供にとどまらず,地域包括ケアシステムへの対応を踏まえた看護実践」とした.

III. 調査方法

1. 看護師教育における地域ケア実習の概要

A大学において保健師教育は学部選択制であり,保健師教育課程の選択時期は3年次末である.2年次までは看護師教育課程として地域看護学に関する講義と実習(以下,「地域ケア実習」)を,全員の必修科目としている.地域ケア実習の教育目標は,「健康課題を抱えて地域で暮らす人々の日常生活を理解できる」こと,「支援が必要な高齢者や障害者が地域で健康に生活するために求められる支援や資源を考察できる」ことであり,学生の達成レベルは,生活者としての対象理解の視点の獲得であり,地域を対象とする看護実践については知識レベルとしている.教育方法は,地域包括支援センターもしくは,地域活動支援センターや障害者就労支援センター等の障害者の相談支援施設(以下,障害者施設とする)のいずれか一方の施設での実習である.教育時期は,2年生という低学年である.教育内容は,実習施設で出会う利用者に対するインタビューを必須の実習体験としている.そのため,実習前の学内学習において,インタビューの技法の教授やロールプレイ演習を行っている.また,実習の一環として,地区視診ガイドラインを用いて実習施設周辺を中心に地区踏査を実施し,得られた地域の特徴や地域の関係機関等を記載した地域マップを作成している.施設実習終了後,地域包括支援センターの実習生と障害者施設の実習生の混合グループを編成し,学内においてまとめの学習を行っている.その学習内容は,支援を受けながら地域で暮らす対象の生活上の強みや困難・困りごとなどの共有を通して,地域での生活課題を明らかにすること,それらをふまえ,支援を受けながら地域で暮らす人々が地域でより健康で生き生きと生活できるために必要な支援を検討することである.

2. 調査対象

A大学の地域ケア実習履修学生84名を調査対象とした.

3. 調査方法

実習前と実習後において集合法による無記名自記式質問紙調査を実施した.実習前の調査では,調査対象者ごとに実習前後での変化を分析できるように,調査票の右上に数字を記載して配布し,調査対象者にはその数字を覚書として別紙に記載して実習後まで保管してもらった.実習後調査では,調査対象者に調査票に実習前調査の数字を記載してもらった.

1) 調査時期

2019年8月~9月に実施した.

2) 調査項目

調査項目は,以下の内容とした.

(1) 地域ケアに関連する学習目標の習得状況

全国保健師教育機関協議会が行った「看護師教育課程における地域看護学教育に関する調査」(全保教教育課程委員会,2017)(以下,全保教調査とする)の「地域看護に関する卒業時到達目標」25項目のうち22項目を評価指標として選定して用い,さらに本実習目標を加えて「看護師教育における地域ケアに関連する学習目標」(以下「学習目標」とする)及び(大項目9項目から構成)を調査項目とした.なお,全保教の調査は,厚生労働省及び文部科学省の示した看護教育における卒業時到達目標から,地域看護学での教育に関わると思われる項目を抽出し作成されている.これらの卒業時到達目標は,基礎教育の学習目標として教育機関に広く周知されており,先行研究においても学習成果の評価や教育内容評価に用いられている(木村ら,2011)ことから,本調査の調査項目として採用した.学習目標28項目を,実習の前後に,どの程度理解したかについて「とてもそう思う」,「まあそう思う」,「どちらともいえない」,「あまりそう思わない」,「まったくそう思わない」の5件法で尋ねた.

(2) 公衆衛生看護学に関する関心の状況

「公衆衛生看護学」に関して,「とても関心がある」,「まあ関心がある」,「どちらともいえない」,「あまり関心がない」,「関心がない」まで5件法で尋ねた.A大学では,看護師教育として地域看護学概論の内容と公衆衛生看護学概論の内容を「公衆衛生看護学概論」という科目名で,地域ケア実習の前に必修科目として2年次前期に教授している.「公衆衛生看護学概論」では,個人/家族の支援から地域課題を特定し,地域の人々や機関と協働して地域ケアシステムを構築する過程を「公衆衛生看護学」を基盤とした地域への看護実践として説明している.そこで,地域ケア実習と「地域」を対象とした看護への関心の関連を評価する項目として本項目を調査項目とした.

(3) 体験項目

実習期間での体験項目ごとに体験の有無を尋ねた.

(4) 実習体験についての自由記述

「実習全体を通して最も学んだこと」を尋ねた.分析では,自由回答の記述は意味内容を要約し,類似している内容を分類して集計した.

4. 倫理的配慮

調査対象者には,調査の趣旨,調査への協力は自由意志であること,協力の有無にかかわらず不利益にならないこと,同意後の撤回ができることを文章及び口頭で説明し,調査への回答をもって研究に同意したとみなした.なお,本研究は,杏林大学保健学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2019-32).

5. 分析方法

「地域ケアに関連する学習目標に対する習得状況」の自己評価について,「とてもそう思う」5点「まったくそう思わない」を1点として,実習前後の点数差を比較し,ウィルコクスンの符号順位検定を行った.また,実習前後の「地域ケアに関連する学習目標の習得状況」と「公衆衛生看護学への関心」の変化との関連についてχ2検定を行った.有意水準は5%とした.分析ソフトには統計ソフトSPSS version 19 for Windows を使用した.

IV. 結果

1. 対象者と実習施設の属性

調査回収数及び回収率は,実習前82名(97.6%),実習後74名(89.1%)であった.このうち,「地域ケアに関連する学習目標」28項目について,実習前後調査の両方に回答が得られた72名の回答を分析対象とした.

2. 分析結果

1) 実習での体験(表1

実習体験は,表1のとおり,全体では「家庭訪問」の体験が最も多く,76.4%が体験していた.実習区分別にみると,地域包括支援センターでは,「家庭訪問」,「介護予防事業」,「地域住民活動(サロン活動)」の順で多かった.障害者施設では,8割以上の学生が「オープンスペースでの利用者との交流」や「定例プログラム」を体験し,62.5%が「所内での職員の支援検討会議」を体験していた.

表1  A大学の看護師教育における2年次必修の地域実習での体験割合
実習全体の体験割合
全体n=72 包括n=48 障害者施設n=24
 1.家庭訪問 55(76.4) 48(100) 7(29.2)
 2.地域住民活動(サロン活動) 46(63.9) 36(75.0) 10(41.7)
 3.介護予防事業 43(59.7) 40(83.3) 3(12.5)
 4.所内での職員の支援検討会議 40(55.6) 25(52.1) 15(62.5)
 5.相談業務見学(電話相談) 35(48.6) 18(37.5) 17(70.8)
 6.他機関との連携会議(地域ケア会議等) 34(47.2) 27(56.3) 7(29.2)
 7.オープンスペースでの利用者との交流 33(45.8) 12(25.0) 21(87.5)
 8.昼食会・お茶会・夕食会 33(45.8) 14(29.2) 19(79.2)
 9.定例プログラム 32(44.4) 12(25.0) 20(83.3)
10.事例検討会 26(36.1) 19(39.6) 7(29.2)
11.ピアカウンセリング 8(11.1) 1(2.1) 7(29.2)
12.セルフサポートグループ 4(5.6) 4(8.3) 0(0)
13.家族会・介護者会 1(1.4) 0(0) 1(4.2)

包括:地域包括支援センター,障害者施設:地域活動支援センター等の障害者施設

( )内は%

2) 「地域ケアに関連する学習目標についての自己評価の実習前後の変化」(表2

実習前後における「地域ケアに関連する学習目標の習得状況」について,ウィルコクスンの符号順位検定を行った結果,28項目全てで学生の自己評価が実習前後で有意に点数が上昇した(p<0.01).対象者の地域での生活を支える支援や看護活動,そのためのネットワークや地域ケアシステムに関する項目である大項目2「地域の特性と健康課題の査定」,大項目5「地域ケアの構築と看護機能の充実」,大項目6「保健・医療・福祉システムにおける看護の役割」について構成される全項目は,実習施設の種別にかかわらず,実習後に自己評価の点数が有意に上昇していた.実習施設の種別でみると,地域包括支援センターで実習を行った学生は,地域ケアに関連する学習目標全項目で実習後に自己評価の点数が有意に上昇した(p<0.05).障害者施設で実習を行った学生の自己評価では,23項目が実習後に有意に点数が上昇した(p<0.05).学生全体の実習後の中央値が5.0で最も高かった学習目標は,大項目7「個人差や多様性の理解」の2項目,大項目8「生活者としての対象の理解」の2項目であった.

表2  地域ケアに関連する学習目標の自己評価の実習前後の変化
大項目 学習目標 全体n=72 包括n=48 障害者施設n=24
平均点 中央値 p 平均点 中央値 p 平均点 中央値 p
実習
標準偏差 実習
標準偏差 実習
実習
実習
標準偏差 実習
標準偏差 実習
実習
実習
標準偏差 実習
標準偏差 実習
実習
1.対象の理解 1)対象者を身体的,心理的,社会的,文化的側面から理解できる 3.42 0.76 4.15 0.54 3.5 4.0 <0.001 3.31 0.74 4.15 0.50 3.0 4.0 <0.001 3.63 0.77 4.17 0.63 4.0 4.0 <0.005
2.地域の特性と健康課題の査定 1)地域の特性や社会資源に関する資料・健康指標を活用して,地域の健康課題を把握する方法について理解できる 3.08 0.81 4.13 0.62 3.0 4.0 <0.001 3.00 0.82 4.13 0.64 3.0 4.0 <0.001 3.25 0.79 4.13 0.61 3.0 4.0 <0.001
3.健康の保持・増進,疾病の予防 1)生涯各期における健康の保持増進や疾病予防における看護の役割を理解できる 3.58 0.72 4.04 0.74 4.0 4.0 <0.001 3.50 0.74 4.19 0.67 4.0 4.0 <0.001 3.75 0.67 3.75 0.79 4.0 4.0 1.000
2)環境の変化が健康に及ぼす影響と予防策について理解できる 3.64 0.69 4.08 0.78 4.0 4.0 <0.001 3.60 0.73 4.10 0.83 4.0 4.0 0.001 3.71 0.62 4.04 0.69 4.0 4.0 0.074
3)健康増進と健康教育のために必要な資源を理解できる 3.46 0.78 4.24 0.59 3.0 4.0 <0.001 3.38 0.84 4.27 0.61 3.0 4.0 <0.001 3.63 0.64 4.17 0.56 4.0 4.0 0.007
4)健康の保持増進,疾病予防のために必要な看護援助方法について理解できる 3.56 0.72 3.94 0.62 4.0 4.0 <0.001 3.50 0.77 4.04 0.58 4.0 4.0 <0.001 3.67 0.63 3.75 0.67 4.0 4.0 0.593
5)対象者及び家族に合わせて必要な保健指導を実施する 3.17 0.91 4.07 0.67 3.0 4.0 <0.001 3.15 0.98 4.13 0.70 3.0 4.0 <0.001 3.21 0.77 3.96 0.62 3.0 4.0 0.003
6)個人特性及び地域特性に対応した健康環境づくりについて理解できる 3.35 0.90 4.22 0.61 3.0 4.0 <0.001 3.23 0.95 4.29 0.61 3.0 4.0 <0.001 3.58 0.77 4.08 0.58 4.0 4.0 0.007
7)健康増進に関連する政策と保健活動について理解できる 3.33 0.88 4.21 0.67 3.0 4.0 <0.001 3.23 0.92 4.25 0.70 3.0 4.0 <0.001 3.54 0.77 4.13 0.61 4.0 4.0 0.009
4.保健・医療・福祉チームにおける他職種との協働と連携 1)保健・医療・福祉チームにおける看護及び他職種の機能・役割を理解できる 3.61 0.77 4.18 0.65 4.0 4.0 <0.001 3.52 0.79 4.19 0.67 4.0 4.0 <0.001 3.79 0.72 4.17 0.63 4.0 4.0 0.021
2)対象をとりまく保健・医療・福祉従事者間の協働の必要性について理解できる 3.78 0.77 4.40 0.64 4.0 4.0 <0.001 3.73 0.81 4.35 0.63 4.0 4.0 <0.001 3.88 0.68 4.50 0.65 4.0 5.0 0.003
3)対象者を中心とした協働のあり方について理解できる 3.67 0.83 4.33 0.67 4.0 4.0 <0.001 3.58 0.91 4.29 0.68 4.0 4.0 <0.001 3.83 0.63 4.42 0.65 4.0 4.5 0.002
4)保健医療福祉サービスの継続性を保障するためにチーム間の連携について理解できる 3.63 0.81 4.26 0.65 4.0 4.0 <0.001 3.60 0.81 4.29 0.65 4.0 4.0 <0.001 3.67 0.81 4.21 0.65 4.0 4.0 0.011
5)対象者をとりまくチームメンバー間で報告・連絡・相談等を行うことができる 3.38 0.95 4.26 0.69 4.0 4.0 <0.001 3.23 1.01 4.21 0.71 3.0 4.0 <0.001 3.67 0.76 4.38 0.64 4.0 4.0 0.002
6)対象者に関するケアについての意思決定は,チームメンバーとともに行うことができる 3.64 0.69 3.93 0.75 4.0 4.0 0.005 3.60 0.67 3.92 0.79 4.0 4.0 0.011 3.71 0.75 3.96 0.69 4.0 4.0 0.184
7)チームメンバーとともに,ケアを評価し,再検討することができる 3.60 0.76 4.00 0.65 4.0 4.0 <0.001 3.56 0.79 3.98 0.66 4.0 4.0 0.001 3.67 0.70 4.04 0.62 4.0 4.0 0.039
5.地域ケアの構築と看護機能の充実 1)自主グループの育成,地域組織活動の促進について理解できる 3.29 0.79 4.03 0.73 3.0 4.0 <0.001 3.21 0.82 4.06 0.72 3.0 4.0 <0.001 3.46 0.72 3.96 0.75 3.5 4.0 0.007
2)個人・グループ・機関と連携して,地域ケアを構築する方法について理解できる 3.31 0.85 4.08 0.74 3.0 4.0 <0.001 3.25 0.88 4.08 0.71 3.0 4.0 <0.001 3.42 0.77 4.08 0.83 3.5 4.0 0.003
6.保健・医療・福祉システムにおける看護の役割 1)看護を実践する場における組織の機能と役割について理解できる 3.63 0.74 4.18 0.69 4.0 4.0 <0.001 3.56 0.84 4.19 0.70 4.0 4.0 <0.001 3.75 0.44 4.17 0.70 4.0 4.0 0.008
2)保健・医療・福祉システムと看護の役割を理解できる 3.54 0.74 4.13 0.67 4.0 4.0 <0.001 3.44 0.79 4.17 0.63 3.0 4.0 <0.001 3.75 0.60 4.04 0.75 4.0 4.0 0.020
3)保健・医療・福祉の動向と課題を理解できる 3.28 0.85 4.07 0.69 3.0 4.0 <0.001 3.17 0.90 4.08 0.67 3.0 4.0 <0.001 3.50 0.72 4.04 0.75 4.0 4.0 0.005
4)様々な場における保健・医療・福祉の連携について理解できる 3.53 0.78 4.22 0.67 4.0 4.0 <0.001 3.48 0.85 4.25 0.66 3.5 4.0 <0.001 3.63 0.64 4.17 0.70 4.0 4.0 0.002
7.個人差や多様性の理解 1)高齢者といっても様々であり,様々な価値観,様々な病気を持った人,ADLレベルの人がいることが理解できる 4.07 0.67 4.40 0.68 4.0 5.0 <0.001 4.04 0.71 4.44 0.61 4.0 4.5 0.001 4.13 0.61 4.33 0.81 4.0 5.0 0.197
2)障がい者といっても様々であり,様々な価値観,様々な病気を持った人,ADLレベルの人がいることが理解できる 4.01 0.74 4.42 0.70 4.0 5.0 <0.001 4.02 0.78 4.35 0.66 4.0 4.0 0.017 4.00 0.65 4.54 0.77 4.0 5.0 0.005
8.生活者としての対象の理解 1)対象者の生活を理解することができる 3.64 0.71 4.40 0.68 4.0 5.0 <0.001 3.58 0.73 4.35 0.66 4.0 4.0 <0.001 3.75 0.67 4.50 0.72 4.0 5.0 0.001
2)生活者として対象を捉えることができる 3.65 0.71 4.44 0.66 4.0 5.0 <0.001 3.58 0.71 4.38 0.67 4.0 4.0 <0.001 3.79 0.72 4.58 0.65 4.0 5.0 0.001
9.地域看護の基盤となる概念の理解 1)個人の健康を支援するためには,周囲の環境を整備するといったヘルスプロモーションの重要性について理解できる 3.64 0.67 4.15 0.68 4.0 4.0 <0.001 3.54 0.68 4.13 0.64 4.0 4.0 <0.001 3.83 0.63 4.21 0.77 4.0 4.0 0.049
2)個人の健康を支援するためには,見守りなどの周囲の支援が必要であることが理解できる 3.82 0.67 4.42 0.64 4.0 4.5 <0.001 3.81 0.73 4.04 0.57 4.0 4.0 <0.001 3.83 0.56 4.46 0.77 4.0 5.0 0.003

p値はウィルコクスンの符号順位検定による.有意水準5%で有意なものを網掛けとした.

包括:地域包括支援センター,障害者施設:地域活動支援センター等の障害者施設

3) 公衆衛生看護学への関心

公衆衛生看護学への関心について,実習前後両方で回答があったのは66名であった.そのうち,「とても関心がある」,「まあ関心がある」の「関心がある」群を合わせると実習前で39名(59.0%)であったが,実習後61名(92.4%)と大きく上昇していた.また,「関心がある」群について実習施設区分別にみると,地域包括支援センターでは実習前で28名(63.6%),実習後で41名(93.1%)であり,障害者施設では実習前で11名(50.0%),実習後では20名(90.9%)で2倍近く上昇した.

4) 地域ケアに関連する学習目標・実習施設種別と公衆衛生看護学への関心の関連性(表3

公衆衛生看護学に関する関心度の変化について,実習前後両方で回答があった66名について,実習後に関心度が上昇した群と,実習前後で関心が変化しなかったあるいは,関心が低下した群に分類し,「実習施設種別」及び「地域ケアに関連する学習目標の習得状況」との関連についてχ2検定を行った.その結果,実習施設種別とは有意な関連がなかった.一方「地域ケアに関連する学習目標の自己評価」では,28項目中,大項目1「対象の理解」の「1)対象者を身体的,心理的,社会的,文化的側面から理解できる」と大項目3の「3)健康増進と健康教育のために必要な資源を理解できる」の2項目で公衆衛生看護学との関心の間に有意な関連がみられた.

表3  地域ケアに関連する学習目標・実習施設種別と公衆衛生看護学への関心の関連
関心度
上昇あり
関心度
維持・低下
合計 χ2 p
実習施設区分 地域包括支援センター 21(46.6%) 24(53.3%) 45(100%) 0.005 p>0.575
地域活動支援センター等障害者施設 10(47.6%) 11(52.3%) 21(100%)
大項目1-1). 対象者を身体的,心理的,社会的,
文化的側面から理解できる
自己評価上昇 21(67.7%) 10(32.3%) 31(100%) 4.106 p<0.37
自己評価低下 15(42.9%) 20(57.1%) 35(100%)
大項目3-3). 健康増進と健康教育のために
必要な資源を理解できる
自己評価上昇 22(71.0%)  9(29.0%) 31(100%) 4.292 p<0.34
自己評価低下 16(45.7%) 19(54.3%) 35(100%)

n=66

5) 「実習全体を通して最も学んだこと」についての自由記述の分析

実習全体を通して最も学んだことの記述内容の分析結果を表4に示す.学生の自由記述について,43のサブカテゴリが抽出され,7つのカテゴリに集約された.

表4  地域実習で学んだ内容(自由記述内容)
カテゴリ サブカテゴリ(記述数)
生活者としての
対象の理解
・高齢者の健康な力(4)
・高齢者の困り事(3)
・高齢者の生活(4)
・障がい者の個別性(1)
・障がい者の困り事(1)
・障がい者の生活と困り事(1)
・障がい者の生活の特性と困り事(1)
・障がい者の特性(1)
・障がい者の理解(1)
・生活理解の視点(1)
・生活史を踏まえた対象理解(1)
生活に着目した
支援
・家庭と地域のかかわりあいの重要性(1)
・家庭訪問の意義(1)
・切れ目ない支援の重要性(1)
・高齢者の自立した生活への支援(1)
・こちらから一歩踏み込んだ支援の重要性(1)
・日常的な状況把握の重要性(1)
・日常的な対象者の状況把握による適切な支援の検討(1)
・サービスの多さが選択肢を広げ地域の居場所を作る(1)
・障がい者と地域を結びつける身近なサービスの重要性(1)
・生活支援の内容(1)
支援方法 ・コミュニケーション能力の必要性(1)
・コミュニケーションの方法(7)
・当事者の意向を尊重した支援(3)
・障がい者への支援方法(1)
・一人ひとりに応じた支援の重要性(6)
実習施設の理解 ・居宅と包括の違い(1)
・地活の活動内容・役割(2)
・包括の活動内容(7)
・包括の予防的活動(1)
・保健師の活動(1)
連携 ・専門職の連携(2)
・対象者の潜在的課題を捉え解決することの必要性(1)
・対象者を中心としてみることの意味(1)
・多様な機関によるチームアプローチ(1)
・多様な機関や住民との連携による対象者の生活の支援(6)
・地域の居場所の必要性(1)
・地域の多様な機関や住民とのネットワーク構築の重要性(1)
・地域への理解(2)
・ネットワークの重要性(1)
ノーマライ
ゼーション
・障がい者もともに地域で暮らしていること(4)
・症状が安定していると周囲に病気の理解をしてもらえない(1)
医療知識を持つ ・幅広い医療知識の必要性(1)

高齢者や障害者の生活上の困りごとや健康な力を捉えた「生活者としての対象の理解」に関する記述が最も多くみられた.次いで,高齢者の自立した生活への支援や,サービスの多さが選択肢を広げ地域の居場所を作るといった「生活に着目した支援」に関する記述が多かった.また,コミュニケーションの方法や当事者の意向を尊重した支援といった「支援方法」や,実習施設の予防的活動といった「実習施設の理解」の記述も見られた.さらに,多様な機関や住民との連携による生活の支援といった「連携」に関することや,障害者もともに地域で暮らしている存在といった「ノーマライゼーション」の理解に関する記述もみられた.

V. 考察

1. 学習目標の習得状況

1) 生活を見る視点の獲得と対象理解に関する学習成果

本実習では,地域での生活に目を向けることを体験に組み込んでいる.実習前後での地域ケアに関する学習目標28項目の習得状況をみると,実習種別によって違いがみられた.しかし,大項目1「対象の理解」,大項目8「生活者としての対象理解」について,いずれの実習種別でも実習後に自己評価が有意に上昇していた.また,自由記述では,「生活者としての対象理解」そして,「生活に着目した支援」について多くの記述がみられた.対象者を生活者として捉える視点や生活を見る視点の獲得につながった理由として,対象者の生活歴,生活の実態や日々の生活に対する当事者の気持ちや考え等を聴取する対象者へのインタビューの実施や,対象の生活環境を捉えるための地区踏査,また,生活の場において展開される支援活動の見学の体験が,地域での生活に目を向ける視点の醸成につながったと考えられた.

2) 地域への看護活動への理解と関心に関する学習成果

佐伯(2014a2014b)は,地域での生活を支えるためには,地域の在宅に関する資源や制度の知識,医療機関と連携するための技能が必要であり,このような地域社会を理解し,地域を見る視点が必要不可欠と述べている.本調査では,地域を見る視点に関する学習目標について,対象者の地域での生活を支える支援や看護活動,そのためのネットワークや地域ケアシステムに関する項目である大項目2「地域の特性と健康課題の査定」,大項目5「地域ケアの構築と看護機能の充実」,大項目6「保健・医療・福祉システムにおける看護の役割」の下位項目全てで,実習施設の種別にかかわらず,実習後で有意に自己評価の点数が上昇していた.また,自由記述では,「連携」や「ノーマライゼーション」の記述がみられた.本実習において,学生は実習施設周辺の地域の地区踏査演習を行った上で施設での実習に臨む.また実習施設では地域で孤立した事例について学ぶ一方で,地域住民によるサロン活動体験や実習施設や関係機関による見守り活動を学習している.これらの体験が地域をみる視点の習得に影響したと考えられる.さらに,本調査では,「対象者の理解に関する学習目標(大項目1)」と「健康増進や健康教育のための資源の理解(大項目3-3)」で,公衆衛生看護への関心と関連がみられた.これらの2つの学習目標は,対象者を疾病に着目して捉えるのではなく,健康な側面から捉える視点の理解,予防活動への理解,さらに地域の人々や機関との協働の理解に関する学習目標項目である.前述したように多様な健康レベルの人々との出会いや支援活動の体験が学習成果に影響したことが考えられる.学内において,実習体験を踏まえ,支援を受けながら地域で暮らす人々に対する支援の検討を通して,実習体験からの学びをさらに統合することが,地域のケアシステムへの関心の醸成につながったと考えられた.

2. 地域ケア実習の課題

最後に,地域ケア実習における課題を考察する.まず,実習施設による学習成果の違いについて述べる.本調査では,地域包括支援センターの実習では全ての調査項目で実習後に自己評価の点数が有意に上昇していた一方で,障害者施設では上昇していない項目があった.安藤ら(2018)が看護教員を対象に調査した看護師教育での地域看護学実習の望ましい実習先は,地域包括支援センターが最も多かったと報告されている.しかし川原ら(2010)は,地域活動支援センターにおける実習において学生は,地域の一生活者として捉える視点を持つことができ,地域における精神障害者への生活支援について学生の看護観に広がりと深まりをもたらし,実習のフィールドとしての意義があると報告している.本調査においても,障害者理解の項目(大項目7-(2))は,障害者施設での実習学生のみならず,地域包括支援センターでの学生においても実習後に自己評価の点数が有意に上昇していた.また,自由記述で「ノーマライゼーション」についての記述が,施設の種別にかかわらずみられた.これは,施設実習後の学内のまとめで実習施設種別の体験の違いの統合をしていることで,障害者への学習の理解が促進された結果と考える.しかし,本実習では,地域包括支援センターもしくは障害者施設のどちらか一方の実習体験となるため,学内のまとめで学習の統合を行っているが,実習施設の違いによって学生の学習成果が異なるという点では,実習施設ごとの体験内容の検討や高齢者や障害者両方の施設体験の検討が必要と考える.

次に,実習時期と他科目との連動の必要性について述べる.本実習は低学年実習であり,対象理解や地域での生活支援活動への理解が中心であり,具体的な予防的働きかけの技術や地域課題の特定のための技術などの専門技術の学習までは包含されていない.全国保健師教育機関協議会教育課程委員会(2017)は,看護師教育における地域看護学教育の位置づけには,環境や社会面に視野を広げて看護の対象への理解を深める基礎的教育と,それらの対象理解を基盤とした生涯にわたる全ての健康レベルにある対象者とその生活の場である地域への看護実践力の獲得する統合的な教育の2点を指摘している.本実習は前者の対象理解を中心とした教育である.後者にあたる地域看護学を基盤とする看護実践力の教育は,高学年において在宅看護学実習とも連動して検討される必要があり,そうした段階的な教育の中で,本実習を位置づけることが必要であると考えられた.

文献
 
© 2020 一般社団法人 全国保健師教育機関協議会
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