保健師教育
Online ISSN : 2433-6890
研究
親子保健における公衆衛生看護技術の体系化
―小地域における親子保健活動技術の明確化に焦点を当てて―
岩本 里織大木 幸子滝澤 寛子平野 美千代鈴木 美和下山田 鮎美橋本 文子波田 弥生佐伯 和子
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2021 年 5 巻 1 号 p. 56-65

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Abstract

目的:本研究は,「生活基盤としての地区/小地域」(以下,小地域)を対象とした親子保健活動における公衆衛生看護技術を明らかにすることを目的とした.

方法:対象は地区活動に関する条件を満たす4市の保健師とし,半構成質問紙による面接調査を行った.逐語録から地区における親子保健活動技術を抽出し分類した.本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を受け実施した.

結果:地区を対象とした親子保健活動技術は,【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する情報収集・アセスメント】【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動計画・評価】【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動展開】の3つ技術に分類され,大技術項目21,中技術項目94が抽出された.

考察:本研究の結果,「生活基盤としての地区/小地域を対象とした親子保健に関する公衆衛生看護技術」が明らかなった.今後,親子保健に限定しない公衆衛生看護技術の抽出が課題である.

Translated Abstract

Purpose: This study aims to clarify public health nursing techniques for parent–child health activities that target “districts/subregions as a living base” (hereafter referred to as “subregions”).

Method: The study recruited public health nurses from four cities who met the criteria for handling subdistrict activities. A semi-structured questionnaire was used as a guide for the qualitative interviews conducted. The study extracted and classified techniques for parent–child health activities in subregions from the verbatim record. The Ethics Review Committee of the Graduate School of Health Sciences, Hokkaido University approved the study protocol.

Results: The techniques identified for parent–child health activity for subregions were classified into three categories, [gathering and assessment of information on parent–child health in the district/subregion as a living base], [activity plan and evaluation on parent–child health in the district/subregion as a living base]and [activity development related to parent and child health in districts/subregions as a living base], while the study extracted major technique item 21 and medium technique item 94.

Discussion: The result highlights “public health nursing techniques related to parent and child health for districts/subregions as a living base” as a viable technology. Thus, extracting public health nursing techniques that are applicable beyond parent and child health should be explored in the future.

I. 緒言

公衆衛生看護は,自らの健康やQOLを維持・改善する能力の向上及び対象を取り巻く環境の改善を支援することにより,健康の保持増進,健康障害の予防と回復を促進し,もって人々の生命の延伸,社会の安寧に寄与することを目的に活動を行うものである(日本公衆衛生看護学会,2014).保健師は保健師の名称を用いて公衆衛生看護の目的を達成しようとする専門職である.佐伯(2013)は,専門職の要件の一つとして,特別な技術・技能を有し,知識だけで事態に対処できない場合には獲得した技能によって物事に対処できることがあることを述べている.さらにFlexner(1915)は専門職の6つのモデルの1つとして「高度に専門化された教育訓練を通して伝達可能な技術をもっている」ことを示している.保健師は公衆衛生看護の目的を達成する専門職であり,それには公衆衛生看護技術が可視化されることが不可欠である.可視化されることで教育による伝達が可能となる.しかし,これまで公衆衛生看護技術を明確化した既存研究はみあたらない.岡本(2019)は,保健師は自らの技術を明確化できておらず早急に打開すべきことを述べている.公衆衛生看護技術を明確化することは,保健師の公衆衛生看護の専門性の確立と保健師基礎教育から現任教育も含めた保健師の技術教育と修得のための教育発展に寄与できるものと考える.

著者ら(一般社団法人全国保健師教育機関協議会教育課程委員会)は,基礎教育における技術教育内容の明確化の一環として教科書の記述を分析し,「親子保健活動における公衆衛生看護技術」の体系化を試みてきた(大木ら,20182019).親子保健活動に焦点を当てた理由は,一つに子どもと親を分離せずに,ともに看護の対象として位置づけ,対象の最小レベルを個人・家族とする公衆衛生看護の専門的活動であることや,ライフステージの初期の段階にあり将来の健康につながる重要な時期であり人口構造や社会情勢が変化しようとも公衆衛生看護活動において必須であり,かつ優先度の高い領域であるためである.二つに近年の家族機能や地域共同体機能の脆弱化を背景に,子どもの健やかな成長発達とその家族の健康課題は複雑深刻化しており,児童虐待予防への支援や発達の課題がある子どもへの支援にあたって,保健師にはより高度な専門性の発揮が必要とされているためである.これらから,親子保健活動は,公衆衛生看護活動の基本的かつ専門的技術であり,公衆衛生看護技術の体系化の第一歩として優先度が高いと判断した.また,教科書の記述を分析した理由は,教科書が当該分野における一般的合意を得た内容を記載していると判断したためである.しかし教科書からの抽出では,対象レベルの「地区/小地域」に関する親子保健活動技術は,十分な抽出に至らなかった(大木ら,2019).その理由は,教科書には,「地域診断」「地域づくり」などを章立てた記述はみられるものの,対象は「地域」や「コミュニティ」とされ,「社会システム」と「地区/小地域」の対象区分を明確に区別した記述がみられなかったためである.

公衆衛生看護活動の対象はミクロレベル(個人・家族),メゾレベル(地区/小地域,地域組織),マクロレベル(社会システム,住民組織)である(佐伯,2014)が,そのうちメゾレベルを対象とする活動はいわゆる「地区活動」という言葉で表現されてきた.しかし,業務分担制が導入され,地区に出向く活動時間が減少し(筒井ら,2005),「地区活動」について言及されることが少なくなってきた.そのような背景を踏まえ,「市町村保健活動の再構築に関する検討会報告書」(市町村保健活動の再構築に関する検討会,2007)では,「地域での活動が保健師の中核業務」であると,地区活動を中心に据えた業務再構築が提言され,公衆衛生看護活動における地区活動の重要性が指摘された(中板,2009).宮﨑(2017)は,地域における看護管理は,保健師の実践活動そのものの意義と重なり,個々の保健師の専門性にかかわる機能として理解するべきと指摘している.すなわち,「地区/小地域」を対象とする「公衆衛生看護技術」の明確化は,公衆衛生看護の専門性の確立における意義を持っているといえる.

次に,本論の前提となる「看護技術」については,公衆衛生看護技術の体系化についての先行研究(大木ら,2019)で述べてきた考え方を継承している.それは,看護科学学会の看護用語集(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会,2011),川島(2010)田島(1994)陣田(2010)を参照し,「看護技術」とは,基本技術そのものを指すと同時に,看護の対象の個別性と提供の場の状況に応じて「意図」をもち,基本技術を組み合わせ統合して提供する行為と捉えた.これらの定義を踏まえて,本研究における「親子保健活動における公衆衛生看護技術」とは,「子どもと家族が地域で健康に生活するために提供される技術であり,対象と場の状況への専門的知識に基づく判断と意図をもって意識的に行う看護行為と定義した.すなわち,行動そのものをさす「活動」ではなく,判断と意図を含むものとした.

以上より,本研究は,「生活基盤としての地区/小地域」を対象とした親子保健活動における公衆衛生看護技術を実践知から,明らかにすることを目的とした.

II. 方法

1. 用語の定義

1)生活基盤としての地区/小地域(以下,地区)は,「保健師が所属する自治体に対してその構成単位としての小中学校区等,産業では部署や支社等であり,人々が日常的に生活(仕事)を営む範囲」(一般社団法人全国保健師教育機関協議会,2018)とした.

2)地区活動とは,公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(一般社団法人全国保健師教育機関協議会,2018)を参考に,「日常生活圏での親子保健に関する課題解決のための住民との協働や関係機関との連携等,地区内外の資源を活用した活動,地区が主体となった保健福祉事業」とした.

2. 対象

対象者は地区を対象とした親子保健活動を実施している自治体で働く保健師とした.対象とした地区における親子保健活動は,①地区担当制による活動である,②地区での地区組織との連携や地域住民,関係者との協働がある,③地区の地区診断に基づく活動が展開されている,の3つの条件すべてを満たすこととした.該当自治体の選定は,まず,上記の地区の条件に合致する自治体を,公衆衛生看護に関する専門雑誌の活動紹介記事および筆者らの研究組織内での自治体の保健師活動に関する情報をもとに行った.次に,候補に挙がった自治体について人口規模により,10万人未満,30万人以上,50万人以上の3区分に各1つ以上が含まれるように,選定した.その結果,対象自治体は4箇所となった.

3. データ収集方法

2019年9月から10月,1自治体につき80~120分のインタビューを行った.インタビューは,地域の特性や組織体制,地区活動の概要を確認後,インタビューガイドをもとに実施した.内容は,「地区の情報収集方法や大切にしている情報について」「地区の情報から課題特定方法について」「地区活動展開にあたって,地域組織や住民との協働,配慮や工夫について」「地区活動の成果や地区の変化,活動評価について」「他地区への波及効果,自治体全体の事業化や計画への反映などの波及効果について」などの質問で構成した.インタビューでは対象者がそのときの状況や思いを自由に語れるよう配慮した.なお,インタビュー内容は対象者の承諾を得てICレコーダーに録音した.

4. 分析方法

分析は,録音内容から逐語録を作成しデータとし,そこから親子保健活動における公衆衛生看護技術を抽出した.本研究は公衆衛生看護技術の体系化を目指すために,先行研究で親子保健活動における公衆衛生看護技術の体系化に向けて作成した枠組みである生活の基盤としての地区/小地域における「情報収集・アセスメント」「活動計画・評価」「地区活動の実践」(大木ら,20182019)に分類し,分類ごとに意味内容が類似するものをカテゴリ化した.また分類名も再検討を行った.分析は,公衆衛生看護を専門とする共同研究者全員で分類やカテゴリ名などについて検討を繰り返し,厳密性を担保した.

5. 倫理的配慮

調査実施にあたり,研究目的および方法,対象者の権利の保護,データの保管等について,各自治体の保健部門管理者に文書にて,対象者には文書と口頭にて説明をし,同意が得られた対象者には同意書に署名を得た.本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号19-51,承認日2019年8月28日).

III. 結果

1. 地区を対象とした親子保健活動における公衆衛生看護技術

調査対象地域の概要及び対象者は,表1に示す.

表1  調査対象とした自治体の概要
自治体 人口規模 人口規模 調査者 活動の概要
A 九州地方 約74万人 2名 保健師は小学校区単位で地区を担当し,地区内で住民組織や専門機関等による親子保健活動に関するネットワークを構築.
B 近畿地方 約34万人 2名 市内7エリアの活動拠点配属の保健師が小学校区単位で地区を担当.親子の生活実態から地域ケアシステムを見直し,住民組織との協働活動のほか,関係機関との新規協働事業を立ち上げ.
C 中四国地方 約72万人 4名 保健師が小学校区単位で地区を担当し,小学校区毎に住民組織と協働して地域づくり活動を展開.保健師はネットワーク化された住民組織と新規事業を立ち上げ事業の継続発展を支援.
D 中四国地方 約10万人 3名 保健師は小学校区単位を地区を担当し,地区内の愛育委員会と共に住民組織と協働しながら,子育て支援活動を実施.

地区を対象とした親子保健活動技術は,先行研究の枠組みを参考に3つの技術に分類された.分類された3つの技術の命名については,既存研究の命名を参考にして再検討し【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する情報収集・アセスメント】,【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動計画・評価】【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動展開】と再命名した.さらに,大技術項目21,中技術項目94が抽出された.分類名を【 】,大技術項目を〈 〉,中技術項目を〔 〕,小技術名「 」で記載する.なお表2には抽出された中技術項目までを表示する.

表2  地区/小地域における親子保健に関する公衆衛生看護技術
分類 大技術 中技術
生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する情報収集・アセスメント 生活の場に足を運び出産育児に関する地域特性や健康ニーズの把握 地区の人々の生活の場で住民と同じ目線で子育てや親子保健の情報を感じとる
地区の子育て資源やネットワークに関する情報を把握をする
子育てや親子保健の地区の情報源を把握する
地区の関係機関に立ち寄り,ニーズを把握する
地区の親子を支援する地区組織やキーパーソンが捉える地区の課題を把握する
関係者や住民との共同による地区単位の質的・量的データの収集 関係者との協働により地区単位のデータを収集する
自治体の保健医療福祉システムを活用し地区の健康に関する情報を収集する
地区への責任を持ち当事者個々の育児に関する声を聴く
個別支援でとらえた親子の特性を地区のアセスメントに反映 地区のアセスメントに日頃の個別支援を反映させる
親の育児行動と子どもの成長発達への影響をアセスメントする
地区単位の質的・量的データを用いた関係者とともに行う地区や親子のアセスメント 保健師間で地区のデータをアセスメントする
保健活動の量的・質的データと地区のデータを突合させる
質的・量的データをもとに関係者と担当地区の親子の生活の姿を描く
地区における保健師と住民の関係性をアセスメントする
地区のキーパーソンや地区の特性のアセスメント 地区の特性をアセスメントする
地区のキーパーソンをアセスメントする
受け継がれていくべき地区の強みを理解する
実態調査から将来的な地区課題の予測 地区の健康課題を明らかにするため実態調査を行う
実態調査から健康課題の動向を察知する
地区で生活する親子の子育て,生活,健康,つながりに着眼した分析 自治体の保健医療福祉システムの情報をもとに地区の人々の健康を分析する
各種保健事業のデータから親の育児に関連する事項を分析する
親子保健に関する地区組織や関係職種の力量を分析する
子育てしている家族の生活状況から地域とのつながりを分析する
地区の人々や関係者が活用できるよう健康指標を分析する
地区の実態を反映した地区データに基づく健康課題の明確化 地区で支援を要する親子の集団を特定する
地区別のデータをもとに健康課題を明確にする
既存の親子保健活動や地区での子育て支援の課題を明確にする
地区の親子の健康課題の変化をとらえる
地区の状況や親子の健康課題について地区組織や関係者と検討 地域の実態を見える化して住民や地区組織に提示する
地区組織や関係職種と親子保健の課題と取り組みを話し合う
生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動計画・評価 親子保健・子育てに関する地区活動計画の立案 地区住民や地区組織委員と親子保健のニーズを共有し一緒に地区活動計画を立案する
地区活動の単年度計画を立案する
保健師間や関係部署と地区の親子保健のニーズや活動計画を共有する
地区活動計画に地区で生活する親子の声や生活実態を反映させる
自治体の予算の仕組みを理解し,親子保健活動に必要な予算を確保する
PDCAに基づいた地区活動計画の立案 地区活動に活かせるように事業計画の様式を工夫する
親子保健の上位の目的に照らし合わせながら事業計画を行う
活動評価をもとに次年度の計画を立案する
自治体の実情や他職種等の助言を次年度計画に反映させる
地区活動計画のモニタリングのための計画立案 年度初めと終わりに総合的な事業の戦略会議を行う
行政組織内の各部署で合意形成を行う
計画書によって地区活動を継続させる
親子保健・子育てに課題を持つ個別事例管理を行う
親子保健の地区活動計画の中間報告を行い進行状況を確認する
親子保健・子育ての地区活動評価 統計データや保健師が主観的に捉えている地区活動成果を評価する
評価項目にあわせて短期,中長期的に評価を行う
事業の改善のために親子保健事業を評価する
地区で生活する親子を支援するシステムや方法の有効性を評価する
親子保健・子育ての地区活動評価の発信 親子保健,子育てに関する地区活動評価を協働機関にも還元する
日ごろから行政組織内外に親子保健事業とその成果を発信する
総合的視野を持ち自治体の他計画等との整合性の担保 総合的視野で親子保健や子育ての地区活動を評価する
生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動展開 信頼関係の構築・維持・強化による地区活動の基盤づくり 地区の親子保健のキーパーソンのもとを個別に出向き,切れ目ない関係づくりを行う
親子保健に関わる地区組織の活動に定期的に参加し顔が見える関係をつくる
地区の子育て機能を担う関係機関に保健活動の理解を得るとともに,「顔つなぎ」をする
地区の親子保健活動に関連する他部署と顔が見える関係を築く
日常活動を通じ地区の関係機関・地区組織と情報交換をする
地区の先達として住民に敬意をもち地区について住民から学ぶ
誠意を持った活動を行い住民や関係機関に対応する
地区担当保健師であることを地区に周知する
地区の住民や組織と協働した地区の子ども・家族への支援 地区の親子支援力を高めるために,キーとなる住民や地区組織,関係機関に親子保健に関する課題や知識を提供する
地区の関係機関や地区組織の理解を得ながら,地区の親子保健事業を協働で運用する
地区での育児相談の場を,親子の情報把握や関係機関や地区組織との連携,個別支援の場として活用する
地区の関係機関や地区組織による地区親子保健活動の継続を支援する
親子を支援する地区の関係機関や地区組織から情報を得て,個別の親子支援を行う
地区組織に委託した親子への支援活動が円滑に運用できるよう支援する
地区組織による親子支援活動のための環境づくりを行う
住民と関連機関の相互のつながりを構築するよう仲介し地域の親子への見守りの力を高める
親子保健に関わる地区組織の育成や支援 地区組織の活動の拠点である地域の日常の情報を収集する
地区組織の歴史,組織構造,活動等を理解する
地区組織活動を展開する力量をアセスメントする
地区内での地区組織間の関係性をアセスメントする
地区の親子保健の課題を,地区組織と一緒に考える
地区の親子保健活動全体を見据えて,地区組織の役割や方向性を明確にする
地区組織による親子保健活動の主体的実施に向けて,組織のニーズに合った支援をする
地区組織メンバー個々の特徴や力量及び相互関係をアセスメントし,支援する
親子保健活動を担う地区組織リーダーのリーダー役割を支援する
親子保健活動を担う地区組織が活動しやすい環境をつくるために,住民や関係機関と繋ぐ
地区における複数の地区組織や関係機関とのネットワークの構築 地区の関係機関や地区組織が地区の親子保健課題に関心を持つよう働きかける
ネットワーク構築に関する住民,地区組織,関係機関の合意形成を図る
親子保健ネットワーク構築に向けて地区の多様な関係機関や地区組織と定期的な意見交換の場を持つ
地区の関係機関や地区組織と地域の親子保健課題に応じたネットワーク構築の方向性を考える
地区の親子保健ネットワークに必要な構成機関を選定し協力を促す
親子の個別事例を通じて関係機関との関係の基盤を構築する
親子保健にかかわる地区の関係機関や地区組織の関係が円滑になるよう調整する
地区活動を親子保健にかかわる地区関係機関や地区リーダーとの連携強化の機会とする
親子保健に関わる地区の物的・人的資源の開発・育成支援 地区組織が自立して活動できる親子保健のシステムをつくることを目指して地区組織に働きかける
地区に新たな資源を必要とするような親子保健課題について,住民の理解を促す
新たな親子保健活動を展開で地区の協力が得られるようタイミングや方法を見計らい働きかける
地区で新たな親子保健活動を展開する際には地区組織や関係機関と協働できるように働きかける
地区の関係機関や地区組織と協働し,地区の新たな親子保健の資源を見出す
住民や地区の関係機関が担う地区の親子保健事業の継続を支援する
地区の親子保健を推進する住民リーダーを見出し育成する
下位システムとしての地区と上位システムとの連動 地区の親子保健の課題をボトムアップでもちあげ区や自治体で対応する
区・自治体の親子保健の仕組みを地区に連動させる

1) 【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する情報収集・アセスメント】

本分類では,大技術項目9,中技術項目30が抽出された.保健師は,「地区の人々の生活の場に足を運び,個々の人々の状況から地区の特性や健康ニーズを把握する」ことや「地域の団体が網羅されている協議会に参加し,地域とのつながりを作る」ことで〈生活の場に足を運び出産育児に関する地域特性や健康ニーズの把握〉していた.

また「地区組織や関係部署の協力を得て地区の子育てに関するデータを地区単位で収集する」など〈関係者や住民との共同による地区単位の質的・量的データの収集〉を行い,〈個別支援でとらえた親子の特性を地区のアセスメントに反映〉していた.さらに「日常の保健活動での気づきを保健師間で共有し,事実や根拠を確認する」など〈地区単位の質的・量的データを用いた関係者とともに行う地区や親子のアセスメント〉したり「地区の風土をアセスメントする」ことや「地域の勢力関係のアセスメントをする」ことなど〈地区のキーパーソンや地区の特性のアセスメント〉を行い,〈地区で生活する親子の子育て,生活,健康,つながりに着眼した分析〉と〈地区の実態を反映した地区データに基づく健康課題の明確化〉を行っていた.収集した情報や明確になった課題については,「地区のデータを地域住民へ伝達する」「地区組織の委員と親子保健の課題と取り組みを話し合う」など〈地区の状況や親子の健康課題について地区組織や関係者と検討〉し,住民へ地域の実態の提示と,今後の取り組みについて話し合う技術を有していた.

2) 【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動計画・評価】

本分類では,大技術項目6,中技術項目21が抽出された.地区活動において保健師は,「地区組織の委員と子育て支援の課題を話し合い共有する」ことなど〔地区住民や地区組織委員と親子保健のニーズを共有し一緒に地区活動計画を立案する〕や〔保健師間や関係部署と地区の親子保健のニーズや活動計画を共有する〕などの〈親子保健・子育てに関する地区活動計画の立案〉〈PDCAに基づいた地区活動計画の立案〉および〈地区活動計画のモニタリングのための計画立案〉に基づいた活動を実施していた.その後〔統計データや保健師が主観的に捉えている地区活動成果を評価する〕など〈親子保健・子育ての地区活動評価〉を行っていた.評価結果については,〔親子保健,子育てに関する地区活動評価を協働機関にも還元する〕などにより,〈親子保健・子育ての地区活動評価の発信〉をしていた.また「自治体の総合計画を視野に,地区のニーズに基づく地区活動を展開する」や「年度終わりに総合事業の戦略会議で評価をする」など〔総合的視野で親子保健や子育ての地区活動を評価する〕などにより〈総合的視野で自治体の他計画等との整合性の担保〉をする技術を用いていた.

3) 【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動展開】

本分類では,大技術項目6,中技術項目43が抽出された.地区において保健師は,〔地区の親子保健のキーパーソンのもとを個別に出向き,切れ目ない関係づくりを行う〕や〔親子保健に関わる地区組織の活動に定期的に参加し顔が見える関係をつくる〕など〈信頼関係の構築・維持・強化による地区活動の基盤づくり〉を地区活動の始めとし活動していた.〔地区の関係機関や地区組織の理解を得ながら,地区の親子保健事業を協働で運用する〕など〈地区の住民や組織と協働した地区の子ども・家族への支援〉や地区内の既存の住民組織である愛育班などの活動の支援や新たな地区住民の組織育成を支援する技術など〈親子保健に関わる地区組織の育成や支援〉技術を用いていた.これらにより地区における親子保健活動に関わる〈地区における複数の地区組織や関係機関とのネットワークの構築〉をする技術を用いていた.さらに,〔地区の関係機関や地区組織と協働し,地区の新たな親子保健の資源を見出す〕〔地区の親子保健を推進する住民リーダーを見出し育成する〕など〈親子保健に関わる地区の物的・人的資源の開発・育成支援〉の技術を用いていた.また,〔地区の親子保健の課題をボトムアップで持ち上げ,区や自治体で対応する〕ことや,〔区・自治体の親子保健の仕組みを地区に連動させる〕といった〈下位システムとしての地区と上位システムとの連動〉をさせる技術を用いていた.

IV. 考察

1. 公衆衛生看護技術の体系化に向けた地区活動における親子保健活動の位置づけ

本研究では,生活基盤としての地区/小地域を対象とした親子保健活動における公衆衛生看護技術として,21の大技術項目,94の中技術項目が抽出された.これらの技術は,地区における親子保健に関する情報収集・アセスメントの技術,さらに計画策定と評価に関する技術,具体的な親子保健活動の展開に関する技術である.

地区活動は,「公衆衛生看護の専門職として受け持ち地区の住民の健康を守る活動」(北山,2018)であり,地区のすべての住民を対象に行う活動である.しかし,これまで地区活動における公衆衛生看護技術は明確でなかった.そこで本研究においては,親子保健活動に焦点をあてて,地区活動における公衆衛生看護技術を抽出した.

親子保健活動は,すべての人の成長発達の最初の段階であり,地区のすべての住民を対象とした地区活動の中でも欠くことができない専門的かつ基本的活動である.保健師は,これまで愛育班や母子保健推進員などの地区組織と協働し地区の親子の健康課題を解決するために活動してきたという歴史がある.本結果において,地区組織との協働した親子支援や地区組織を含めたネットワーク構築などが抽出された.これらは親子保健活動に焦点を当てたからこそ得られた結果であると考える.一方,保健師は,地区活動において対象を生活集団としてとらえ,生活の営みに即した援助活動を行う(北山,2018).親子を対象とした地区活動であって,成人や高齢者を対象とした活動であっても,対象と生活集団として捉え,地域共同生活体へ広げた活動展開は程度共通していると考えられる.したがって本研究で抽出された親子保健活動を対象とした技術は,基本的な地区活動技術であり,成人や高齢者などを対象とした技術としても応用可能な技術であると考える.

2. コミュニティ・エンパワメントのための公衆衛生看護技術の具体化

野田ら(2017)はコミュニティ・エンパワメントの概念分析により,これを「誰もが安心して暮らせる健康な地域を目指して,組織や地域の人々が,対等な立場で互いに話し合い,合意の形成を行う中で,緩やかな絆で繋がり,支えあう関係性を形成し,共通の課題解決に向かうプロセス」と定義している.また,その支援としては,「個人」「組織」「支援者」の3側面における影響要因を見出している.さらに,野田ら(2017)は,地域の課題にグループのメンバー達が気づき,その課題解決のために,グループ内で話し合い意思決定しながら,主体的に行動を起こしていくことが必要であると述べている.しかし,具体的な技術としては示されていない.本研究では〈関係者や住民との共同による地区単位の質的・量的データの収集〉〈地区単位の質的・量的データを用いた関係者とともに行う地区や親子のアセスメント〉〈地区の状況や親子の健康課題について地区組織や関係者と検討〉〔地区住民や地区組織委員と親子保健のニーズを共有し一緒に地区活動計画を立案する〕など,情報収集・アセスメント,活動計画立案の段階から,地区の親子保健に関わる健康課題について,住民,地区組織,関係者と一緒に検討し健康課題に気づき,解決に向けて検討する技術を見出した.さらに,〈信頼関係の構築・維持・強化による地区活動の基盤づくり〉をもとに,〈地区の住民や組織と協働した地区の子ども・家族への支援〉〈親子保健に関わる地区組織の育成や支援〉〈地区における複数の地区組織や関係機関とのネットワークの構築〉などの協働やネットワーク化の技術,地区組織が自立して活動できるための地区の物的・人的資源の開発・育成支援をする技術を見出した.このように地区において「組織」や「支援者」が繋がり,支えあう関係性を形成し,これが地域の親子保健の課題解決に向かうための具体的な技術となっている.したがって,本研究で抽出したこれらの技術は,このコミュニティ・エンパワメントを実現するために用いる公衆衛生看護技術の一部を具体化したものと言える.

3. 生活基盤としての地区/小地域を対象とした公衆衛生看護活動技術の特徴

公衆衛生看護活動の対象はミクロレベル(個人・家族),メゾレベル(地区/小地域,地域組織),マクロレベル(社会システム,住民組織)であり,各システムを構成する要素が相互に関連している(佐伯,2014).本結果において〈下位システムとしての地区と上位システムとの連動〉する技術が抽出され,地区における親子保健の課題を自治体全体で対応したり,逆に自治体の仕組みを地区に連動させる保健師の活動技術が明らかになった.

地区(地区/小地域)は「個人・家族」の生活基盤であり,そこには様々な「住民組織/地域組織」が存在し,一方ではその上位システムである地域(自治体組織)とつながりをもちながら社会活動を営んでいる.それらのつながりや関係性を把握し,地区の人々の生活実態にあわせて,働きかけていかなければ地域の健康課題は解決しない.それは,暮らしと健康問題は不可分一体の現象である(佐々木,2011)ためである.

原田(2009)は,保健師が有してきた機能として「身近な圏域で発見された地域の生活課題が,より広い圏域で共有化され,全体として施策や事業化につながっていき,そのことが身近な圏域の活動を応援し,さらに新しい地域活動の開発につながっていくという循環があること」を指摘している.したがって本技術は,重層的な自治体システムの仕組みにおける地区(地区/小地域)の位置づけを理解し,地域の親子保健に関する健康課題解決にむけて活動を循環させていく重要な技術であると考える.

4. 【生活基盤としての地区/小地域を対象とした情報収集・アセスメント】および【生活基盤としての地区/小地域を対象とした活動計画・評価】の技術の特徴

地域の情報収集・アセスメント関する技術は,これまで地域看護診断(金川ら,2011)や地域看護アセスメント(佐伯,2018)などとして方法論が示されている.本研究では,地区活動の中で,生活の場に足を運びながら〔生活の場に足を運び出産育児に関する地域特性や健康ニーズの把握〕や地域の強みや〔地区のキーパーソンや地区の特性のアセスメント〕,〔地区で生活する親子の子育て,生活,健康,つながりに着眼した分析〕をしながら,〔地区の実態を反映した地区データに基づく健康課題の明確化〕するなど生活の場に出向き地区の情報収集やアセスメントをする技術を抽出した.自治体全体の地域看護診断・地域アセスメントに比べて地区でのそれの特徴は,保健師が地区に入り込み,自らの五感と住民とのやり取りを通じて,住民の思いと生活実態を感じ取り,地域のニーズを把握していくことである.また地区のキーパーソンや地区組織のアセスメントも不可欠である.自治体全体を対象とする保健活動に比較して地区活動では,地区の課題を解決するために地区住民や地区組織と協働した活動が前提にある.このような地区活動の特徴が,情報収集・アセスメント方法の技術に反映されていると考える.

さらに保健師は地区に入り込み生活やニーズを把握した上で,〔地区の実態を反映した地区データに基づく健康課題の明確化〕の技術を用いて地区の健康課題の明確化をしていた.地区の中に入り込み感じ取った情報と,客観的な地区データを突合させ健康課題を明確にしていくことも地区活動における特徴的な技術である.一方で,保健師が受け持つ地区の単位の例として小学校区などがあるが,この単位での地区の統計情報の整備がなされているところは少ないと考えられる.今後,地区活動を推進するためには,地区単位での保健データの整備は課題といえる.

5. 本研究の限界と保健師教育への示唆

本研究は,地区における親子保健活動を実施している4自治体に所属する11名の保健師を対象とした.自治体の選定に関して,地域を構成する要素として人口規模を考慮したが,地域特性としての地理的物理的条件や文化等の違いまでは十分に検討できなかった.このような地域特性に由来する技術が抽出できていない可能性がある.

また,本研究においては,既存研究での教科書を中心にした記述では抽出できなかった「生活基盤としての地区/小地域を対象とした親子保健に関する公衆衛生看護技術」を明らかにできた.既存研究(大木ら,2019)と合わせて,親子保健活動における公衆衛生看護技術の体系が明らかになったと考える.今後,親子保健活動における公衆衛生看護技術について既存研究論文についてメタ分析を行い,当該技術の検証をしていくことが必要と考える.

さらに,本研究において地区を対象とした親子保健における公衆衛生看護技術が明確化されたものの,地区における活動は親子を対象としたものだけではなく多様なライフサイクルの人々を包含したダイナミックな活動である.親子保健活動技術はそれらの基本的な活動技術として応用可能であると考えるものの,今後,対象毎の技術および包括的な公衆衛生看護技術を明らかにすることが課題である.

一方,近年,国の政策として,地区活動が推進されている(市町村保健活動の再構築に関する検討会,2007).「生活基盤としての地区/小地域を対象とした親子保健における公衆衛生看護技術」の修得を,保健師基礎教育において強化していくことが重要であると考える.特に,公衆衛生看護専門職として,地区に入り込み,自らの五感と住民とのやりとりを通じて,住民の思いと生活の実態を把握することや,信頼関係を基盤として,地区の人々・組織と協働しネットワークを築くと共に,上位組織がもつ仕組みや機能を活用する技術を意識して教授することが大切である.これらの技術を身に着けるには,今後,一定の期間をかけて,地区を受け持ち,地域の中に入り,住民との関係づくりから協働活動までを体験しうる実習などの検討が必要であると考える.

V. 結語

本研究の結果,「生活基盤としての地区/小地域」を対象とした親子保健における公衆衛生看護技術は,【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する情報収集・アセスメント】【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動計画・評価】【生活基盤としての地区/小地域での親子保健に関する活動展開】に分類される大技術項目21,中技術項目94が抽出された.これらの技術を習得するために保健師基礎教育において,地区担当や住民との関係構築・協働活動等が実践できる実習を検討していく必要がある.

謝辞

本研究の調査にご協力いただきました4自治体の保健師の皆様に深く感謝申し上げます.

文献
 
© 2021 一般社団法人 全国保健師教育機関協議会
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