抄録
主な移民の就労に関する研究が,彼らの就労先が職業別の「ニッチ」のような特定の産業や職種毎に分断化されていくとみなしていたなかで,移民たちがどのようにして特定のニッチに参入していくのかという問いが提示されている。本稿は,1990年代以降,資格外就労者の労働市場に参入するビルマ系難民を事例とし,彼らがどのようにして労働市場における位置づけを確立していったのかを,入職経路に着目しつつ明らかにする。特に初職から現職に至るまでの過程において,彼らがどのようなアクターから就労に必要な資源を提供されてきたのかに注目する。
フィールドワークのデータからは,以下のことが確認された。ビルマ系難民は,都市部の飲食業において職業ニッチを形成してきた。この職業ニッチは労働者の高い流動性を背景に,社会的ネットワークによる連鎖雇用によって形成されてきたものである。ビルマ系は,初職には親類や同居人などの身近な友人とのネットワークを介してアクセスしていく。その後,現職に至るまでに,政治組織や宗教組織,職場といった場面を通じて新規の友人関係を形成し,豊富な転職機会にアクセス可能にしている。なかでも多様なエスニックな出自や宗教的背景は,ビルマ系に同じエスニック集団成員に限らない友人関係を形成可能にしてきた。こうした来日以降に形成されたネットワークが,ビルマ系の職業ニッチを維持・拡張させてきたのである。