現代社会学研究
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「人種暴動」の国際社会学・序説
樽本 英樹
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2002 年 15 巻 p. 83-96

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抄録

2001年春から夏にかけて,英国イングランド北部の諸都市で「人種暴動」が勃発した。本稿では,主な舞台となったブラッドフォード,オルダム,バーンリーにおける「暴動」の具体的様相を記述し,「暴動」の何が問題なのかを国際社会学の視角から考察する。「人種暴動」は,まずはそれが引き起こす物理的・経済的損失の大きさでその問題性を把握される。しかし,そのような物質性は象徴性をもはらんでおり,社会当事者たちの依拠している自明世界を破壊する。特に,国際移民やエスニック・マイノリティに関わる多様性・寛容性の規範が動揺し,移民排斥的でナショナリスティックな同質性・非寛容性の規範に力を与えてしまう。このような規範の動揺という問題は,国際社会学的視角からは市民権モデルの選択の問題と等価である。「暴動」は市民権の多文化モデルを動揺させ,国民国家モデルへの回帰を迫るのである。英国内務大臣が「暴動」後に提唱した市民権政策は,その回帰を忠実になぞるものになっている。「人種暴動」の問題性は,物理的・経済的範疇に留まるものではない。国際移民やエスニック・マイノリティに関わる市民権モデルを動揺させる点,およびその後のモデル修復過程に社会当事者を誘う点が,国際社会学的には注目に値するのである。

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