2015 年 84 巻 3 号 p. 243-252
デンドロビウム属の植物は切り花や鉢物花卉として産地で利用あるいは輸出される.いくつかの原種は自生地域が限られており保全の必要性がある一方で,原種は雑種の作成に用いられるものもある.本研究では,タイで栽培されている 27 種のデンドロビウム属植物について rDNA の ITS(ITS1-5.8S-ITS2)と matK 遺伝子の配列を調査し,系統発生学的関係を調査した.これらの種は 9 つの節,すなわち Breviflores,Callista,Dendrobium,Distichophyllum,Form osae,Pedilonum,Rhopalanthe,Stachyobium,Strongyle に属するものであった.matK 遺伝子と rDNA ITS における平均ヌクレオチド変異(p-distance)はそれぞれ 1.3%と 11.2%であった.matK 遺伝子と rDNA ITS の塩基配列に基づいて作成した系統樹の樹形には若干の違いがあった.デンドロビウム属については matK 遺伝子に比較して rDNA ITS の塩基配列に従うのが良いとされている.今回作成した matK 遺伝子と rDNA ITS を統合したデータは rDNA ITS の結果と近いものであった.rDNA ITS のみのデータおよび統合データから 27 のデンドロビウム属植物は,系統学的分類と少し異なる 2 つのクレードに分類された.この研究はタイに自生する 27 のデンドロビウム属植物の分子系統学的類縁関係について明らかにした最初のものである.