The Horticulture Journal
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原著論文
S-RNase 依存性自家不和合性遺伝子の進化系統解析から示されたバラ科祖先種における S 遺伝子座重複
森本 拓也赤木 剛士田尾 龍太郎
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2015 年 84 巻 3 号 p. 233-242

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抄録

自家不和合性は植物の遺伝的多様性維持のための重要な機構である.ナス科,オオバコ科,バラ科植物の持つ S-RNase 依存性配偶体型自家不和合性の特異性は,S 遺伝子座に座乗する遺伝子にコードされる花粉側因子の F-box タンパク質と雌ずい側因子の S-RNase 間での自他認識機構によって決定される.リンゴやナシ,核果類などのバラ科果樹において,自家不和合性は育種や栽培の障壁となるため,古くより果樹の研究者は自家不和合性機構とその遺伝制御を解明するための研究を行ってきた.本研究では,全ゲノムワイドな S-RNase 遺伝子の系統解析によって,バラ科植物における S 遺伝子座の進化成立過程を定義した.系統樹および遺伝子の分岐年代から,リンゴ亜連とサクラ属の持つ S-RNase はバラ科の共通祖先において既に重複していたことが示された.さらに,重複した S-RNase 様遺伝子の近傍には,リンゴ亜連およびナス科の花粉 F-box と高い相同性を示す F-box 遺伝子が座乗しており,S-RNase および花粉 F-box 遺伝子が座乗する S 遺伝子座全体が重複した可能性が推察された.遺伝子の発現様式と進化速度解析から,重複した S-RNase 様遺伝子の片方は自他認識機能を喪失し,単一の S 遺伝子座が形成されたと推定された.以上の結果から,現在のバラ科植物の持つ S 遺伝子座は重複後に独立して進化しており,属特異的な自家不和合性認識機構が存在する可能性が考えられた.本研究から得られた情報は,今後,バラ科園芸作物の効率的な育種や栽培を行う際の基礎情報となる.

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