要旨:歩行運動は,自動的な側面を持つことに加え,加齢の影響を受ける。そのため,転倒を引き起こす何らかの影響を受けることが推察され,研究がされてきた。つまずきによる転倒の原因と考えられていたToe clearance(以下TC)は,高齢者では常に低下しているわけではなく,体幹動揺や歩行遊期中の膝・足関節角度のばらつきがTC のばらつきを生じさせ,TC が低い歩行周期中に偶発的に転倒に結びついている可能性がある。そのTC は,無意識かつ受動的に作られるため,遊脚期中に下肢筋活動の再現性を高めることが重要になる。その方法として,直接的に体幹を安定させることもあるが,遊脚期側下肢を支える立脚期,特に立脚中期から前遊脚期にかけての土台である足部・足趾機能の向上も選択肢の1つとなる。この足部・足趾機能を代表するものに足趾把持力があり,姿勢制御,前方への推進力の作用もあると推測されている。足趾把持力は,足趾屈筋のみならず,足部の柔軟性や下腿筋の同時収縮,特に前脛骨筋の筋活動量が重要である。このように歩行時の下肢末梢部の作用・機能は,転倒防止やバランス機能,運動制御の観点からも重要であるため,着目していく必要がある。