学童期の運動発達が認知発達に影響を及ぼす可能性が指摘されているが,特定の運動機能が認知機能に与える影響は明確ではない。本研究では,小学生60名を対象に,運動発達と認知発達の関連を検討した。認知発達はDigit Span Test(DST),運動発達は立ち幅跳び(筋パワー・協調性),反復横とび(敏捷性),握力(筋力),開眼片足立ち(バランス能力),上体起こし(筋持久力)を指標とした。解析では,性別・年齢・ローレル指数を統制し,認知発達を従属変数,運動発達を説明変数とした順序ロジスティック回帰分析により,運動発達と認知発達の指標間の関連を検討した。その結果,立ち幅跳び距離はDST の順唱・逆唱と有意な関連(p<0.05),上体起こし回数はDST の順唱と有意な関連(p<0.01)を示した。他の指標には有意な関連は認められなかった。これらの結果から,全身協調運動能力や筋持久力の向上が,特に作動記憶や注意力を含む認知機能の発達に寄与する可能性が示唆された。
本研究は,特別養護老人ホーム43施設を対象に,介護職員の腰痛および抱え上げ介護の状況と移乗介助用福祉用具の導入割合との関連について検討した。介護職員1553人のうち,常に腰痛がある者の割合は14.2%,抱え上げ介護実施者の割合は21.9%であった。福祉用具については,リフトの導入割合が7.6%で最も低かった。相関分析の結果,腰痛者が多い施設ほど抱え上げ介護実施者の割合が多かった。また,抱え上げ介護実施者の割合は,今回解析した移乗介助用福祉用具の4項目(跳ね上げ式車椅子・リフト・スライディングボード・スライディングシート)すべてと有意な相関が認められた。さらに,抱え上げ介護実施者の割合を従属変数とした重回帰分析の結果,リフトの導入割合のみが有意な変数として抽出された。これらの結果から,介護職員による抱え上げ介護を減らし,腰痛を予防・改善するためには移乗介助用福祉用具の導入,とくにリフトの導入を充実させる必要性が示唆された。
本研究の目的は,従来から腹圧性尿失禁の原因とされるBMI や出産回数,運動習慣に,胸椎・腰椎・仙骨の立位姿勢の脊椎アライメントを新たな因子に加え,中高年女性における腹圧性尿失禁に影響する因子を抽出することである。腹圧性尿失禁を有する中高年女性20名と尿失禁がない状態(尿禁制)が保たれている中高年女性28名を対象にBMIや出産回数,運動習慣を聴取した。また,胸椎・腰椎・仙骨の立位姿勢の脊椎アライメントには脊柱形状計測分析器スパイナルマウスを使用して計測を行った。腹圧性尿失禁の影響する因子を二項ロジスティック回帰分析で検討した結果,胸椎の後弯角度のみが抽出された。その一方,従来から腹圧性尿失禁の原因とされている出産回数や運動習慣は抽出されなかった。以上の結果から,姿勢変化が生じ始める中高年女性において,胸椎後弯角度へのアプローチが腹圧性尿失禁の予防に有効である可能性が示唆された。
〔目的〕本研究の目的は,ラット膝屈曲拘縮モデルを用いて,関節の凍結保存が筋を除去した状態における関節可動域測定に及ぼす影響を検証することである。〔対象と方法〕8 週齢のWistar 系雄ラット12匹を,非凍結群と凍結群の2 群に分けた。両群とも右膝関節を150°屈曲位で4 週間固定し,その後,伸展可動域を測定した。非凍結群では,関節固定前,関節固定除去後,膝周囲筋除去後の3 時点で測定を行った。凍結群では,関節固定前と関節固定除去後に測定後,右後肢を離断して8 週間凍結保存し,解凍後に膝周囲筋除去後の可動域を再測定した。〔結果〕膝関節伸展可動域において,非凍結群と凍結群間に有意差は認められなかった。〔結論〕関節の凍結保存は,筋を除去した状態での関節可動域測定に影響を及ぼさない可能性が示唆された。
本研究は,介護職員の身体的負担を軽減し,安全で働きやすい職場をつくることを目指して令和2 年度から5 年間実施している福岡県ノーリフティングケア普及促進事業の効果を検討するために介護職員の腰痛症状の有無,および抱え上げ介護実施の有無,移乗介助用福祉用具導入状況について調査した。その結果,事業取組1 年目の施設の腰痛有訴者率は62%であったが,取組5 年目の施設では47%まで減少していた。抱え上げ介護実施状況においても取組1 年目の施設は81%が抱え上げ介護を実施していたが,取組5 年目の施設では40%まで減少していた。一方,移乗介助用福祉用具導入数は取組期間が長い程に増加していた。ノーリフティングケア普及促進事業に取り組むことによって腰痛の有訴者数,および抱え上げ介護の実施割合を減少させる効果が期待されるが,効果の定着には介護職員の教育および技術習得のため一定期間を要すると考えられた。
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