2012 年 11 巻 2 号 p. 199-203
クリの自家不結実性は,他の果樹のようには完全でないと報告されているが,その自家結実性の程度については明らかになっていない.そこで本論文では,花粉遮断試験とSSR遺伝子座の遺伝解析によって,品種間における自家結実性の変異を明らかにした.花粉遮断試験の結果,調査した51品種・系統の約47%にあたる24種類において結実が確認された.そのうちの5品種とその自家結実実生13個体について,SSR遺伝子座の遺伝を確認したところ‘伊吹’,‘大峰’および‘豊多摩早生’由来の8個体が自殖実生であると推察された.特に,‘豊多摩早生’に関しては着毬率(62.5%)と結果率(33.3%)も他の品種・系統と比較して極めて高く,調査した6個体すべてが自殖実生であることが確認された.一方,‘笠原早生’,‘丹沢’および‘大峰’に由来する5個体は,他家受粉に由来すると考えられた.以上の結果より,クリにおいては品種によっては自家結実が可能であるが,それはごく低頻度であり,基本的には自家不結実であると結論した.しかし,今回用いた品種・系統のうち,‘豊多摩早生’だけは自家結実性と判断した.